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【1章】11 ドライブって会話できないものでしたっけ?
「今日は戦闘があったとの事ですが、もしかして頭を強打されてますか?」
「戦闘で頭も打っていますが……今気持ち悪い事とは無関係です」
姉崎士長に市民病院に連れてきてもらったが、ハンカチで口を押えながら会話をしているので、医師にも勘違いされる状況になっている。
姉崎士長とのドライブは中々ハードだった。
ドライブって言うと普通暇になりがちなので、会話を楽しむものだと思うが、そんな余裕は一切なかった。
街中でタイヤが鳴るなんて初めて聞いた……
崎村1曹が酔い止め渡してきた理由がよく分かった。
ダンジョン前を出発する時に崎村1曹と姉崎士長が何か話していたが、恐らく安全運転的な事だろう。
それでも、酔うような体調になったので、免許取らせちゃいけない人だと思う。
運転している時の姉崎士長はそれまでのほんわかした雰囲気から一変して、とても野性味溢れてイキイキしてた。
レーサーの方が適職なんじゃないだろうか。
ちなみに、道中パトカーから
「姉崎! またお前か!!」
とスピーカーで叫ばれながら追っかけられてたけど、いつもこんな運転で何で免許有効なんだろ。
第一声に車種じゃなくてドライバー指名で声がかかるのは、よっぽどの常習でないとならないと思う。
なにしろ到着した後気さくに話し合ってたし。
もう友達だよね、ソレ。
そんなワイルドドライバー姉崎士長から触診した見解を医師に伝えてもらうと、先にレントゲンを撮る事となるので、レントゲン室に移動する。
さすがにレントゲンは撮影順番があるので、少し待つことになる。
車の中でしようと思ってできなかった、しゃぶしゃぶメンバーに一応連絡しておかないといけない。
もしかしたら今日の開催無理かもしれないし。
姉崎士長に一言いって、通話可能なエリアに移動させてもらう。
自分でまともに動けないのがツライ。
ちなみに院内はお姫様抱っこじゃなくて車椅子移動!
羞恥プレイからはおさらば!
科学の発展万歳!
会話の内容を聞かれるのは恥ずかしいけど、これくらいは許容しないといけない。
仕事中でも一番会話しやすそうな人間をアドレス帳から呼び出してコールする。
『もしもし、アッキー?』
まだ仕事中なので普段よりテンション低めで、大学の同期は通話に出た。
「月夜、今電話いい?」
『いいけど、そっちもう終わったの?』
「なんというか、怪我して今病院にいる」
『は!? なんでアッキーが怪我してんの? 大丈夫なの?』
心配してくれるのはありがたいけど、ダンジョンに行ったのに俺が怪我する事が異常のような声色に聞こえるのはどうしてだろ。
「今は体が上手く動かせない。細かい所はこれからレントゲンで調べてもらうとこ。だから、今日はしゃぶしゃぶ無理になるかもしれない」
『……ちょっと待って』
どうやら他の奴らも近くにいたらしくて、伝えているようだ。
『月夜、そのギャグは面白くない』という言葉をマイクが拾っているのはどういう事だろう。
『アッキー? 私も今から病院に行くわ! どこの病院?』
「市民病院だけど、仕事は大丈夫なのか?」
『何とかなるから大丈夫! じゃ』
そういって月夜は電話を切った。
一旦しゃぶしゃぶ無理になる可能性がある事を認識してもらおうと思って連絡したけど、来てくれることになるとは思わなかった。
「月村月夜という30代の女性が来たら、俺の知り合いです。多分和服……というか着物を着ているはずです」
姉崎士長に、月夜が来ることになった事と特徴を伝える。
月夜の会社で服装はフリーなので、月夜は基本的に着物で仕事に行っている。
病院で着物を着ている人物は珍しいはずなので、細かい特徴言わなくてもいいのは助かる。
「着物を普段から着ているというのは、珍しい方ですね」
メモをしているのか、スマホをいじりながら姉崎士長は返答する。
「あ、和田さんメアドとL〇NE教えてもらってもいいですか? タツから聞いておいて欲しいって連絡入ってました」
どうやら、これまで俺の相手でスマホ見る余裕が無かったからメール等をチェックしてたようだ。
というか、その人俺と会った事あるのか?
「あの、タツって誰ですか?」
「あ、すみません。崎村の事です。ウチの隊は公式の時以外はあだ名や名前で呼ぶことになってるので、つい」
タツさんと会った事ありました!
少し前にダンジョンから連れ出してくれた、命の恩人でした!
誰に渡されるのか理解できたので、姉崎士長とメアドとL〇NEを交換する。
少しすると、L〇NEのグループに追加された通知が届く。
「姉崎士長、なんかグループに入れられたんですが……」
「それも、連絡あったので」
「いや、グループ名『H市陸自ダンジョン組』ってなってるんですが。俺入隊してませんよ?」
ダンジョン探索したけど、あくまで俺は一般人!
冒険者カード取ったら名実共に冒険者になってしまうかもしれないけど、自衛隊には入ってないので対象外だ。
「あ、それタイチョー……えっと………………中村が突っ込めって連絡入れてきていたので大丈夫ですよ」
ほら、とL〇NEの履歴を見せてくれる。
確かに『タマ、ツッコメ』って書いてある。
…………いや、おかしいだろ!
なんでそれで伝わってんだ!!
ただのセクハラ発言にしか聞こえない!!
それにしても公私共に隊長(タイチョー)だから名前を忘れてしまったのか……
ちょっと中村3尉に同情する。
だって、思い出したんじゃなくてスマホで確認してたし。
ちなみに、タイチョーで中村3尉を指しているのは伝わっていたが、そこは触れないでおくのが優しさだと思ってスルーする。
まあ、責任者がいいって言ってるなら俺はグループに追加された事は触らないようにする。
さらっとメンバー見てると、タツという名前の人が今期のアニメアイコンになっているのが目に付く。
やっぱ、そっちの人か崎村1曹……
ちなみに姉崎士長は車のアイコンになっている。
姉崎士長のスマホチェックが終わったら、またレントゲン室まで車椅子を押してもらう。
「そういえば、姉崎士長ってレーサーになろうとしなかったんですか?」
気になっていた事を聞いてみる。
むしろ、世間の為にも仕事だけでその実力を発揮してもらいたいものだ。
「私入隊まで免許取ってなかったんですよ。だから車に興味が出た時にはもう……て感じです」
なるほどタイミングが悪かったのか。
こればかりは仕方ないよね。
たいした距離ではないので、レントゲン室には話している間に到着する。
「ドライブ楽しいので、皆乗って欲しいのに中々みんな乗ってくれないんですよね。だから今日は楽しかったです」
ニパッと音が聞こえてきそうな満面な笑みで、そう言われると本当の事は口にできない。
俺にはこの笑顔を曇らせる事は出来ない!!
「ほんと、快適なドライブなのにどうしてなんでしょうね~」
………………『H市陸自ダンジョン組』の皆ごめん。
せめて心の中で謝る。
少し待つとレントゲン室の中に入るように呼ばれたので、中に入っていく。
忘れてたけどレントゲンって服脱ぐんだったね。
大人になってあまり親しく無い女性に服を脱がされるのは、恥ずかしさが込み上げてくる。
病院に来る前に月夜に連絡をしなかったのを後悔した。
月夜に着替えさせられるのは今更なので、アイツなら恥ずかしさを覚えなかったのに。
レントゲン撮影後、暫く待ってから再度診察室に呼ばれる。
現像に時間がかかってしまうのだから、ここは国策特権でもどうしようもないのだろう。
結果からすると内臓や神経を痛めている事はないと分かった。
強く体を打ってしまったのが原因で、数日かかれば日常通りと言われて、湿布等を処方される。
姉崎士長は知識があるようで、レントゲンの画像を見ながら色々指摘していた。
陸自で現地の治療担当とかしてるのかな。
どうも特急ドライバーとしての意味以外で、姉崎士長を同行させてくれたみたいだ。
特急ドライバーだけなら後で中村3尉に文句を言おうと思ってたけど、これではできない。
ちなみに姉崎士長が知識あると思ったのは、医師と二人で異次元語を話し始めたからだ。
患者にも分かる日本語で会話して欲しかった……
今日は異次元の出来事ばかりなので、日常の病院まで異世界浸食はやめて欲しい。
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