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【1章】12 ただいま
「あ、アッキーいた!」
診察を終えてロビーに戻ると、着物姿の女性が声を上げて小走りにかけてくる。
月夜さん、ここ病院ですよ……
月夜と姉崎士長は挨拶をして、診察内容を話し合う。
俺は異次元語を習得していないので、月夜と一緒に詳細な診察結果を知る事が出来た。
俺が診察で理解したのは
・強く打ったけど、異常はない
・数日すれば治る (ハズ)
・いくつか処方してくれる
これだけ。
理由とか全然わかんなかったし。
日本人なんだから、異次元語じゃなくて日本語使って欲しいよね。
「という事は、アッキーは数日こんな状態って事ですか?」
「明日は今日と同じで殆ど動けないと思います。早くて明後日の夕方から一人でもなんとかできるようになると思います。
車椅子が必要なら会計の時に貸してもらおうと思ってますがどうします?」
「いえ、車椅子は大丈夫です」
車椅子を借りても部屋で使用できるわけもない。
さすがにこんな状態で、ダンジョンや役所に来いと言われないはずなので辞退する。
「分かりました。会計と薬局で薬の処方してもらってくるので、待っていて下さい」
お願いして待つことにする。
「アッキー、私ちょっと仕事休んで生活手伝おっか? さすがに動けないとなると一人暮らしじゃ厳しいでしょ」
「仕事大丈夫なのか?」
今日抜けた上で数日休むのはさすがに心配になる。
「社内的にゴタついてるから、むしろ私は殆どやる事が無いって感じ。ユーに言えばすぐ許可出るわ」
ため息つきながらそんな事を言う。
「また、花村さんが原因か?」
「そ、沙織。最近頻度が高くなってきてる。アイツ自分の会社潰したいのかと思いたくなるレベル。私は専らユーとユッキーの愚痴聞きになってるから、二人とも今日アッキーに会いたそうだったわ」
花村沙織とは月夜が働いている会社の副社長で俺の高校の同級生。
ちなみに月夜は気に入った人物に必ずあだ名をつける事にしているので、名前で呼んでいる花村沙織はそういうことだ。
「外野の俺が口を出すことじゃないけど、いっその事別会社にした方がいい気がする」
「アイツの趣味の事業が赤字になってなければね…… こっちの利益食い潰されてるからいい加減にして欲しいわ」
相変わらず花村さんはやりたい放題のようだ。
「そんなわけで、あまり動けないだけみたいだからするわよ」
「いや、中止するかは俺の体の問題で提案したんだけど!?」
「大丈夫、話せるんだから食べることできるわ。口の中にはちゃんと突っ込んであげるから。私たちの為にも今日は開催ね♪」
「あれ? 俺主体じゃなくてそっちが主体だったの!?」
どうやら、俺がダンジョンに行くことになったというのはただの口実で、俺の昔馴染みはただ単に集まりたかっただけのようだ。
返して!
俺の感動返して!!
俺がしゃぶしゃぶを提案された裏事情に嘆きを入れていると、処方された薬を貰ってきた姉崎士長が戻ってくるのが目に入る。
「それじゃ、帰りましょうか。ところで月村さんは車で来られました?」
「自分の車できてるので、アッキー乗せていこうと思ってます」
「車から部屋まで成人男性を運ぶの大変なので、お手伝いさせてもらいますよ。ただ、道がわからないので和田さんには私の車に乗ってもらえればと」
違う。
これは姉崎士長が誰かとドライブしたいだけだ!
もう一度アレを味わえと!?
月夜を見ると「確かに」と呟きながら考えている。
月夜!! こっち! 俺を見て!!
その提案の先に希望は無い!!
「それじゃお願いしようかな……ってアッキー? なんで急にグロッキー状態になってんの?」
「恐らく月夜さんも来たことで気が抜けてしまったのでしょう。緊張が解けると急に疲れが来たり、痛みを感じたるするのは自動車事故やハードワークでもみられることです」
月夜は納得してしまったが、全く的外れな指摘だ。
単純にもう一度タイヤの音が鳴り響くようなドライブに巻き込まれたくなかっただけだ。
レントゲン前にいい顔した罰が、よもやこんな短時間で帰ってくるとは思わなかった。
見当はずれの結論を見出した女性二人は、俺を暴走車へドナドナしていく。
姉崎カーは先に出たが、数分後すぐ後ろに付いていた月夜の車は見えなくなりパトカーのサイレン音が鳴り響くことになる。
S市夕方、サイレン、タイヤ、クラクション様々な音が鳴り響き街が華やいだ。
暴走止めれなかったからと言って、助手席の免許にペナルティつかないよね……?
「一人暮らしって聞いてましたけど、いいアパートじゃないですか。陸自の寮なんかより全然いいですね」
自分のアパートになんとか誘導する事が出来た。
爆走した本人はピンピンして俺の住んでいるアパートを見ている。
しかし、俺は再度気持ち悪さと格闘してる。
マジハキソウ
姉崎士長の運転の激しさに参りながらもなんとか誘導できたが、何度も言いそびれたり間違えた誘導をしてしまったので、到着は月夜の方が早かった。
車の中にいなかったので、先に部屋に入っているのだろう。
階段もあるので姉崎士長に抱えられて運ばれる事になるのを見られないのはちょっと嬉しい。
「アッキー、誰かにいじめられてんの?」
姉崎士長に運ばれて部屋に向かっていくと、部屋の中に入らずにドアの前にいた月夜に声をかけられる。
何でドアでそう思ったのかと思ったけど、昨日張り紙をしていた事を思い出す。
クマショックで忘れてた。
『ドアは勝手に治りません。殴られすぎれば壊れてしまいます。いじめないであげて下さい』
言うまでもないけど、市役所の探索サポート課、西原さんに向けてのメッセージを念のためにドアに貼っておいた。
不在時に壊されたらたまった物じゃないからだ。
ちなみに張り紙の横は生々しく凹んでいる。
予防の為に貼らなければと昨日は思ったけれど、知らない人から見ればいじめられているように見えるか。
「えっと、何かトラブル抱えているのでしたら相談に乗りますよ?」
「まあ、とりあえず中に入りましょう。鍵は問題ないので」
姉崎士長が心配そうに声をかけてきたが、外で女性に抱えられている現場を近隣住人に見られるのは嫌なので、中へ誘導する。
トラブルは冒険者に招集された事に起因するわけだけど、これって対処してもらえる問題なんだろうか。
なんにしろ、愛しの我が家に無事生還できた!
ただいま!
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