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3 謝罪と要求
新入社員の頃、形だけの謝罪の練習をさせられたが意味が分からなかった。
しかし、目の前に発生した虚を突かれるようなジャンピング土下座を見ると、謝罪って大切なんだとこの歳になってようやく気付く。
いや! そもそもなんで謝罪!?
地元の役所からは連絡なかったよねと徐々に冷静になった頭が回りだす。
後方にはドアクラッ…………じゃなく西原さんがいるので地元の市役所の方というのは間違いないだろう。
っていうか西原さんも驚いているように見えるんだけど!?
ジャンピング土下座ってやっぱり市役所の基本ではないってことなのか。
「えっと、事情は分かりませんがとりあえず中に入ってもらえます?」
市役所職員は玄関口で周囲の目を気にさせるような事をするのがマニュアルなのか、連日取り合えず中に入れたくなるような事をしてくる……
テーブルを挟んで2対2の形で席についてもらうと、月夜に飲み物をお願いする。
「えっと、お茶請けのお肉はレアがいいですか?」
「あ、いえお構いな……ぇ? 肉??」
色々な人とあっているだろう方でも、さすがにお茶請けに肉を提供されたことはなかったか。
俺も初めて聞いたけど……
月夜が冷蔵庫の肉の処理をさせようとしているのが伝わってくる。
それなら事前に持ち込む量を考えて欲しいんだけど……
「どうぞ」
社交辞令の断りを入れられたが構わずお茶請けを出す。
相手の前には宣言通り肉なんだが……
「「えっと…………」」
「高級品ですので、お試しください」
月夜さん?
レアどころか生なんですが??
ってよく見ると月夜の目が笑ってない。
これ怒ってらっしゃいますね。
昨日話したドアの事が原因かな……
ちなみに俺たちの前にも当然ながら生ものが置かれている。
月夜お気に入りの洋菓子店のプリンだ。
きめ細やかで舌先で広がる卵の味が堪らない絶品!
世の中ではカラメルが先とか後とかの論争があるが、このプリンにはカラメルなんて存在しない。
むしろカラメルの強い味でプリンの風味を損なってしまう!
このプリンを味わってから俺たちの間ではカラメルを付ける事こそ邪道という共通認識が発生した程である。
……っと、ついつい好きな物で意識が違う所に行ってしまった。
全員の前に置かれているのは高級な生ものという観点では同質であるが全くの別物である。
親しくない方でも歓迎されていないどころか敵対意思を示す様な行為だ。
目の前の人物とか顔にヤベェって文字が浮かんでてもおかしくない顔をしている。
「玄関口での謝罪ですが、何に対しての謝罪ですか?」
このままでは空気がヤバイので、話を進める。
「自衛隊の方より連絡をいただきまして、私共の組織から迷惑行為にあたるような連絡が行っていると伺いまして、この度謝罪に参じさせていただきました」
「そちらからは連絡を頂いておりませんので、謝罪の必要はないと思いますが」
「別の地域がご迷惑をおかけしたとしても、同じ組織の人間として謝罪をさせて頂きたく思いまして」
そう言って、隣で我関せずな感じでいた西原さんの頭を机に押し付けながら自分の頭を下げていた。
月夜がお茶を作ってもらっていた時に出された名刺を見ると、探索サポート課の課長で平というらしい。
上司がいるせいで大人しくしているのかな……
「その謝罪がこの菓子折り一つってわけ? 一体どれだけこっちが損耗したと思ってるの? たまたま陸自への連絡先があったから良かったけれど、なかったらどうなってると思ってるの?」
おかしい、外野が一番切れてる……
「はい、この度の事は大変申し訳なく」
「言葉とかいいからどうしてくれるのかを聞きたいの!」
「あの~お手伝いされてる方だとは~思いますけど~、ご本人とお話を~」
「何? 私も迷惑受けたの事実なんだけど? アッキーが休みの間、代わりにあなたたちがダンジョンに行ってくれます?」
月夜の言葉が終わると同時に、平課長は西原さんを机に叩きつけて謝罪の言葉を述べる。
小声でなんか言ったような気がするけど、たぶんお前は黙ってろとかだろうな。
二人は知らないけど、月夜は仕事の方でもかなりストレス溜まってるから沸点低くなってると思う。
拘ってる部分に触れなければ、基本的にはあまり怒らない人間だし。
「月夜落ち着け。 今回の事は仕方ない部分はありますが、月夜の言うように迷惑を受けたのは事実です。 ダンジョンなんて想定外の事が起こっているので、問題が起こるのは仕方ない部分はあります。
今後もお互い色々あると思いますが、私たちが困った時にお力になって頂けますか?」
今まとめようとしている別口の話の場合、行政側への協力要請は必須になる。
その事を考えると下手に物で謝罪を受けるよりも人的協力を得られた方がメリットが大きい。
まさか裏で動いているとは思わないだろうし俺の隣にはクレーマーがいるわけでさっさと終わらしたいのが本音だろう。
そのうち今回の俺の提案を受け入れた事を後悔する日が来るかもしれないが、冒険者たちの安全の為に泣いてもらおう。
ただ、この話は俺が有用と思われてないといけないのが難点か……
この後少し雑談をしていたが、サポート課の評価というのは所属の冒険者の成果次第と決まったようだ。
一般職員は更に担当冒険者の評価がそのまま査定となるようだ。
具体的な評価方法は決まっていないようだが、モンスターを倒すような存在というのは他所の地域に取られるわけにはいかないと思われ無くなれば反故にされかねない。
早めに話をまとめて協力をお願いしよう。
俺のような一般人がそんな成果出せると思えない。
プロ自宅警備員歴二桁は伊達じゃない!
一般家庭の夕食時間くらいにはお帰り頂いた。
ちなみにお茶請けの肉には手を付けなかったので、夕食に利用することにした。
食中毒になられたらたまらないので、手を付けられなくて良かったと思う。
最後までお茶請けを変えなかった事と手土産を帰りに付き返したことで、月夜は終始歓迎しなかったことになる。
というか、今度お願いする時に今日の対応で心象悪くして拒否されないだろうな。
取り合えず、夕食食べたら資料作り始めよう。
俺のお茶請けも月夜に食べさせてもらわないといけなかったので、結局夕食のデザートになった。
提供者以外手を付けられないお茶請けばかりっていうのも珍しいな。
……
…………
二人が帰った後に思い出したけど、
今のタイミングでドアの修理言ったら余裕で役所持ちで修理になったんじゃなかろうか
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