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【1章】1 講義と抗議
「時間になりましたので、点呼を取ります」
昨日、西原さんに渡された紙に書いてあった自衛隊キャンプ地に俺はいる。
遅刻にも罰則がある可能性があるので、遅れないように1時間前からいた。
準備中と思われる隊員がいたので、「コイツ、時間間違えたんじゃね?」のような視線が向けられた……
自宅警備員には周囲の視線がツライので、ツ〇ッターを見る事にする。
他の招集組から発せられている悲壮感漂うツイートが止まらなかった……
中にはフラグを立てるツイートもあったが、不吉なのでやめて欲しいと思った。
当然関連のタグはトレンド入りしていた。
そんな事を思い出していると点呼が取り終わったらしい。
今は10人集まっているが、これで全員と点呼を取った隊員が言った。
ぇ? 無職ってこんなに少ないの?
市内にもっといるだろ……
「自分は隊長の中村陸自3尉であります。 本日はここにいる陸自の6名と他1名が貴殿らのバックアップに当たる事となっている」
そう言って一人一人が階級と名前を名乗っていくが、面倒なので覚えない。
女性もいたので、自衛隊って現場は男だけのイメージだったけれど、女性もいるものなのかと思った。
こう言うと、ムキムキの印象を受けるかもしれないが、そんな事はない。
視覚的なマッスル度だとアスリートの方が高いと思う。
各種行動を目的とした自衛隊と、決められた部分を追求したアスリートの差なのかもしれない。
体を鍛え上げているという事から来る印象よりも、断然スマートだ。
引き締まった体という言葉がシックリくる。
他一名に関しては、ダンジョン入り口の監視を行っているとの事で名前だけの紹介をされた。
うん、一時も目を話したらダメだよね。
「本日の目標だが表層である1階部分の探索を担ってもらう。外と直結している1階を早期に隊の管理下に置く為である」
まあ、そうだろうな……
「突入部隊は貴殿らと、先ほど紹介した崎村1曹で行ってもらう。残りのメンバーは外で待機する」
「オイオイ! それはどういうことだ!? 一緒に行うんじゃね~のかよ?」
ホストをやっていそうな男が、全員が心に浮かべた疑問を代弁した。
「上からの通達で突入する陸自は一人と決められている。 異議は認められない。 召集されるメンバーにはこちらの規約に則り罰則を与える事も認められているので注意していただきたい」
全員が不満そうな顔をするが、罰則と言われては誰も声を出そうとしない。
けれども、モンスターがいるかもしれない所に戦力外10人と隊員1人というのは違和感がある。
「質問いいですか?」
「何か?」
「歩兵の装備で、モンスターに効果があるものはありますか?」
「……対戦車ライフルならば多くのモンスターに効果がある事は確認している。小銃は多くのモンスターには皮膚で弾かれているように思う。刃物は小銃の状況から効果が望めない事とリスクが高い為、試していない」
俺がそう質問すると、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら答える。
痛い所を突かれたのだろう。
ダンジョン内で使用可能に思える兵器で回答をしたのは、俺の狙いが分かったからだろう。
普段は戦車の主砲やミサイルで退治しているのだろう。
ダンジョン内部で脅威を排除できる可能性が低い為に、隊からは最小限の人員投入という事だろう。
同行者1人というのは、建前上付けざるを得ないからと考えられる。
恐らく国としては探索を政策として達成する事よりも、やる事を重視しているのだろう。
何回か後には、随行する隊員すら外される可能性もあるな……
「続けるが、ダンジョンの大きさから1階の大きさは市民体育館程度の大きさである。 これまで外に出てきたモンスターの量から考えて間違いなく地下に広がっている。
内部の状態が分からないので、どの程度モンスターが1階に生息しているか不明です。
現場では崎村1曹の指揮に従ってください」
さすがにダンジョン内で陸自の言う事に従わないバカはいないだろう。
命を懸ける場で経験者の言う事を無視するのは、自殺志願者以外の何ものでもない!
「ダンジョン内部では分岐している事が考えられる。 その際には崎村1曹は最初の分岐点で待機しトラブルや遭遇時の撤退支援に備える。 何かあった際には崎村1曹の所までなんとしても逃げてこい!
これから生存確率を上げるための説明をするので、しっかり聞くように」
そう言った後、一度話を切って支給品の配布が始まる。
支給品はバックパックではなくて、腰に付けるポーチ形式だった。
入る量は少ないが、バックパックよりも咄嗟の時に動きやすくなる。
内容もメディカルキットを主として構成しているようだ。
この大きさなら当然だが、武器類は一切入っていなかった……
火力面の不安を俺が明らかにしたので、招集者から抗議が入った。
指摘した立場としては、ちょっと肩身が狭かった。
陸自の回答は上からの指示だと突っぱねられた。
「どうせ使えないのだから、逃げる事を考えろ!」
正論すぎて、招集者からは二の句が出ない。
武器がまだ身近なナイフだとしても、恐慌した味方が無闇に振り回せば脅威でしかない……
ちなみに、ホストをやっていそうな男 (長いので、チャラ男 (仮)に改名)はそういった事が分からないようで、かなりごねていた。
陸自の隊員がチャラ男 (仮)に近づこうとしたのを、崎村1曹が止めているのも目にした。
……あれ、殴ろうとしていたんじゃなかろうか。
その後、崎村1曹は何かにメモしていた。
チャラ男 (仮)、恐らく何らかの罰則が付いたな。
同じ轍を踏まないように注意する事を、俺は心に刻んだ。
後で崎村1曹に聞いたところでは、作戦の前の負傷を避けたかっただけで、直後に作戦でなければ殴らせていたそうだ。
その後、2時間程でレクチャーは終了した。
内容は、支給品の詳細な使い方と危険感知等のやり方だった。
素人がどこまで実践で使用できるかは疑問だった。
久しぶりの講義のようなものを受けて、正直疲れた。
特に学生の時と違って、命がかかってるので集中の度合いが違うので尚更だ。
「さて、これで貴殿ならにはダンジョン探索を始めてもらうわけだが、国から一つ伝達がある。 『葬式は国として挙げるから心配いらない』だそうだ」
あれ? 俺たち死ぬこと前提になってない??
ふと、ツ〇ッターを見ると人権団体への訴えで溢れていた。
……
『俺、無事に帰ってきたらドアの修理費請求するんだ。 #ダンジョン探索』
急にツイートせずにはいられなくなった。
朝見たツイート主の皆さん、ゴメンナサイ。
今なら皆の気持ちが分かる。
フラグだろうが、言わないとやってられない。
直ぐに通知が鳴りまくるが、無視する。
どうせ『フラグ立てんな!』辺りだろうから。
朝はホント、ゴメンナサイ……
30分食事休憩を取った後、
ダンジョン付近に行く指示がかかったので、支給された物品を身に付けて歩き始める。
歩いているとポケットに振動を感じた。
スマホを確認するとメールを受信していた。
『今日の夜、皆でお前の家にしゃぶしゃぶしに行く』
学生時代の友人からのメールだった。
単純に死ぬなっていわれるよりも効いた。
絶対に生きてまたあいつらと話すために、俺は帰ってくる!
そう心に浮かべながら、ダンジョンという死地に向けて、一歩一歩大地を強く踏みしめて進んでいく。
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