【1章】3 はじめてのだんじょん

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【1章】3 はじめてのだんじょん

ダンジョン内に足を踏み入れると、入口で感じていた冷気が全身を襲ってくる。 防寒具を着用した俺たちには環境による攻撃は問題なかった。 しかし、顔はノーガードである。 今日の探索が終わったら、中村3尉に申請してみよう。 今後もダンジョン探索に駆り出されるのだから、重要である。 今日は無いので、寒さにこわばった顔で周囲を伺う。 一言で言うとダンジョン内は気持ち悪い程の違和感があった。 見まわせる範囲で言うと洞窟内が整然としすぎている。 鍾乳洞や鉱山に行ったことがあると理解できるが、歩く部分意外は凸凹としているものだ。 むしろ歩行する部分でもアスファルトのようにきれいなわけではない。 しかし、そのアスファルト上のように整地されているのが目の前に広がるダンジョンだ。 これが、塔や城という人工物であればまだ理解できる。 しかし、俺たちが挑もうとしている(というか日本に存在する)ダンジョンは洞窟型! 天然物のはずなのに、綺麗に整地がされているのは気持ち悪さしか感じない。 つまり、何者かが何かの意図をもってダンジョンを出現させたのではないかという疑問がこみあげてくる。 様々な場所で訓練していると思われる崎村1曹は、俺と同じ気持ちを抱いたのか訝しんだ様子で周囲を見回している。 他の招集者は何も感じないようで、歩きやすいと言葉を零しているくらいだ。 崎村1曹が周囲を注意深く一度見まわした後に、後方にいる俺たちの方を向く。 「先ほど説明したハンドサインについて、再度確認します。これ以降はハンドサインでの連絡が増えるので、私の行動に注意をして下さい」 そう崎村1曹が言うと、何人かがポーチから何かを取り出そうとする。 「ライトは点けないで下さい。外でも説明していますが、モンスターに気付かれる危険があります。使用は、ダンジョン内で気になる事があった場合のみに限定して下さい」 直接モンスターと戦わない事を前提としているので当然の措置だ。 歩いている間に忘れた招集者が多いのか、ライトに手を伸ばした人は少なくない。 「まず、暗闇に目が慣れているか確認をします。私の手と同じ形を各自して下さい」 そう言うと、崎村1曹は右手の人差し指とを二本立てて手を挙げた。 数字の2を表した形だ。 なんとなく暗闇の中で見えている俺は、すぐさま2の形にして右手を挙げる。 半分くらいの人物は同様の動きをしたが、慣れ具合には個人差があるようで残りは目を凝らすような仕草をしている。 時間が経つにつれて徐々に手が挙がってくる。 「全員見えたようなので、これからハンドサインを復習します。これ以降は説明しませんので、確実に覚えて下さい」 そう言って、崎村1曹が説明をしていく。 心なしか周囲の空気が外の時よりもピリピリと肌を突いてくるように感じる。 ダンジョンに入っただけでなく、崎村1曹の言葉でこれからは死があり得るというのをヒシヒシと感じるようになったのだろう。 外で一度説明したという事もあり、簡単にサインと意味をサラっと行うだけだった。 サラっとした説明と言っても、外でしっかりと聞いていればおさらいとして十分なレベルだ。 崎村1曹個人かここの陸自全体かは分からないけれども、一般人をなんとか生かしたいと思っている事の表れだろう。 普通、作戦現地にて確認なんてしない。 下手をすれば不意打ちに繋がるのだから…… 説明が終わると崎村1曹を先頭に行動を開始する。 警戒をしながらの前進になるので、遅めになる。 崎村1曹はさすがプロの自衛隊という行動をしている。 視界が悪くなるポイントで体の置くポイント、安全確認の動作等は映画や漫画さながらである。 小銃を抱えながら行動するのは大変そうだが、慣れた動きだ。 俺だったら、あんな機敏な動きはできない。 テレビで見ると軽く見えるかもしれないが、鉄の塊である。 重くないわけがない。 対して、素人丸出しの招集組はチラチラと周囲を観察するくらいである。 しかも、崎村1曹とはちょっと距離を空けている。 何かあった時の安全策と思われる。 「……あなた一体何者ですか?」 そんな声をかけられて俺は周囲を見回す。 しかし、声を掛けてきた崎村1曹の視線の先には、俺以外にはいない。 はて……、何か変な行動を取っただろうか? 思い当たるのは招集組よりも崎村1曹の近くにいた方が安全だろうと思って、カルガモ親子のようにピッタリとくっ付いていた事だ。 俺の頭では意図が汲み取れなかったので、質問のまま返答する。 「37歳、自宅警備員です」 「いえ、そういう身分を聞きたいわけではないです」 一応基本データは見てますし、と崎村1曹は呟いている。 役所が持っているデータは送られてるのかな…… 身分を知りたいのでないなら、問われているのは何なのだろうか? 周囲の警戒は怠らないようにしながら、崎村1曹は言葉を探るような顔をしている。 「私は実践に出向いた事はないですが、訓練はしています。特に警戒をしている今のような状態であれば、人が近づいてくれば気づきます。 ですが、えっと……和田さんはこんなに近くにいるのに全く気づけませんでした」 特に背後に俺がいるのに何も言ってこなかったのは、気づいていなかったからか…… 気付かれた上でスルーされていたと思っていたので、意外だ。 「他の人は足音も聞こえてきていますが、和田さんのモノは全く聞こえてきません。 ……それに加えて声も反響しないように注意してますね? 呼吸も浅くしているように感じます。 一般人かもしれませんが、武道等で身につく事に思えません」 そう言ってチラッっとこっちに視線を投げて、周囲の警戒に視線を戻した。 普通の状態だったらジト目で言われていたんだろうな…… 「そう言われても……、長らく自宅警備員をしていて身に付いたくらいしか思えないです。俺、長いですし」 「……まあ、そういうことにしておきましょう。言わなければいけないことでもないですし」 いや、ホントに思い当たる節ないんだけど…… どうやら、崎村1曹は俺の言いたくない事に触れたと思っているようだ。 強いて言えば、実家の近所にあった道場に通っていたくらいだ。 すぐ破門されたけど。 その後たまに俺が天井を眺めていると、崎村1曹が気になったらしく聞かれた。 「蝙蝠とかが天井にへばりついている可能性が怖いですよね。視力以外で相手を補足するタイプだと、こちらの警戒と違うパターンでないと気づけない可能性があります。 地面や壁を移動するタイプなら、少なからず振動や音を発するので注意を減らしていいと思ってます」 「……訂正します。本当に一般人ですか?」 ただのゲーム知識の応用をしただけの一般人です。 後方を歩いている招集者が警戒疲れの雰囲気を出し始めてきた。 体感で言うと40分くらいの進行だと思ったけれど、普通に歩いたらその半分の時間もかからない距離だと思う。 後方に目を向けると、集団でも二つのグループに分かれていた。 大体男女で分かれたような感じだが、チャラ男 (仮)だけは女性側にいる。 アイツ、こんな状況で口説こうとでもしてるのか? まず生きて帰ってから考えろと思わずにはいられなかった。 「一度休憩をしましょうか、ちょっと気になるポイントがありますので」 曲がり角の先の壁にへばりついて確認していた、崎村1曹がそんな声を掛けてきた。 曲がり角の先には少しスペースが広い空間があるようだ。 それを聞いた全員が息を飲む。 これまでモンスターとは遭遇せずにここまでこれた。 広い空間があるとすると、モンスターがたむろしている可能性が高い。 俺たちはわずかばかりの休憩を取ることで、控えている戦闘 (というか確認後の逃走)に万全の態勢で臨む事となったのだ。 こちらの戦力と言えるのは崎村1曹である。 逃げるにしても、モンスターを怯ませたりする事ができるのは崎村1曹となる。 是非とも、崎村1曹には万全な状態で臨んで欲しい! 他は俺を含めて、いてもいなくても大差なのでどうでもいいだろう。 そうは言っても、全力ダッシュの為に腰を下ろして疲れを取ることにする。 念の為、目を閉じて聴力だけの警戒だけは継続をしておく。 ほんの数分後に起こる事態も対処可能である事を願いながら、体力の回復に努める。
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