【1章】4 緊迫の先にあるモノは……

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【1章】4 緊迫の先にあるモノは……

数分後、俺たちは万全 (と思われる状態で)最大の戦力を先頭に広間へ突っ込んだ。 すみません、盛りました。 崎村1曹が躍り出て、その背後に俺が付いて死角をなくした。 背中合わせの状態であるが、あくまで俺は目としてだけの役割だ。 ……他のメンツは、広間の入り口で待機している。 ありえねぇ! 特にチャラ男 (仮)! 口説きたいならここは絶好なポイント稼ぎだろ!! 道中で現を抜かすなら、こういう時にキバレ! さて、乗り込んだ俺たち二人はどうなったかと言うと …………ナニモアリマセンデシタ いい事なんだろうけど、なんだろうこの決死の覚悟で乗り込んだのに何もなかったというやるせなさは。 命の危険が無かったのはいいことなんだけど。 この気持ちをどこかにぶつけたくなる! 厳密に言うと、いくつかの小道があるように見える。 崎村1曹が前方を確認してくるといったので、俺は広間後方の道がいくつあるのか確認する。 後方は3本 (と俺たちが来た道)、前方は3本+広い道が1本の計7本と分かった。 ここで、ようやく入口から動かない面々を崎村1曹はハンドサインで呼ぶ。 広間の調査段階で呼ぶと邪魔になると思ったんだろうな…… ここからは分岐となるので、崎村1曹が広間に待機しての調査となる。 問題は誰がどこに行くのかである。 「オッサン! あんた真ん中の太いとこ行けよ!  一番年上だろうし、一人で行って俺たち若いもんにいいトコみせてくれよ!」 との声がかかった。 内容は別にいいが、もう少し声が響かないように注意して欲しい。 崎村1曹が否定の声を上げそうになったので俺は耳打ちする。 「一人の方が逆に安全だと思うので、それでいいです」 崎村1曹でなくても、一つだけ道の太さが違えば何かあると考えるのが自然だろう。 その為、崎村1曹は人数を増やす事を考えていたと思う。 しかし、俺としては逆に人が増えた方が足手まといになると判断している。 これまでの行動からも見ても、俺一人の方がまだまともな動きができるだろう。 「……分かりました。では和田さんに入口の直線上にある、太い道をお願いします。 ですが、他の人にも等しく危険があります。細い道、他に人がいるからと言って注意を怠らないようにして下さい。」 他の道が安全という保証も全くないけれど、心理的には一つだけというのは意味があると考えてしまう。 特にこのダンジョンは天然物ではなく、人工的に作られた可能性が高い。 (一夜にして日本中に発生したという現象をどうしたかは不明だけど) 一本だけの太い道に危険があると判断して、逃げようとするのは自然な事だ。 だが、一番危険なのは把握してないのに安全だと錯覚したまま探索を行う事だ。 チャラ男 (仮)の言葉に、気持ちの軽さを感じてたのだろう。 崎村1曹は全体に引き締めの言葉を伝える。 次いで崎村1曹はどの道に誰がいくのか指示し始めたが 「どの道に行くのかは自分達で決めさせて下さいよ!」 とチャラ男 (仮)が口を挟んできた。 崎村1曹は頭に手をあてたが、道の先から戻ってこれない可能性を考慮したのか 「全ての道に人がいくように組むのであれば、許可します…… 但し、人数上限は二人までです。」 と諦めたような声で許可を出した。 チャラ男 (仮)は死ぬから最後になるかもしれないという意味で提案を出したのではないと思う。 その証拠に、女性招集者と一緒になるように交渉をしているのだから…… まず自分の命の心配をしろよ 絶対、俺が行く道以外は安全とタカを括っているだろう。 チャラ男 (仮)がいく先にモンスターがいたら、間違いなく死ぬだろう。 もしそうなら同行者は災難となるので、俺なら全力で拒否をする。 しかし、チャラ男 (仮)以外の招集者はそんな気力がないのか、生死の前の些事を気にしている余裕がない雰囲気を醸し出している。 チャラ男 (仮)が仕切って決めている状態となり、チャラ男 (仮)はめでたく女性招集者と同じ道に行く事となった。 警戒の為に俺と逆方向を向いていた崎村1曹に声を掛け、組み合せが終わった事を伝える。 「この後は個別での調査になります。今後はモンスターの遭遇となる可能性が高いです。外で説明したように逃げる事を優先して下さい。 現在ポイントまで逃げてくる事ができれば、私も応戦に入ります」 崎村1曹の言葉を受けて、周囲からホットしたような空気が流れてくる。 しかし、このポイントまで逃げれるのかという問題の解決にはならないので安心できる話ではない。 「私がモンスターとの交戦に入ると銃声が聞こえます。銃声が聞こえた場合には調査を中止して撤退行動に移って下さい。 調査している道から戻ってくる際には、必ずモンスターがどうなっているか警戒をして下さい」 今後はサポートがない身だからか、真剣に聞いている雰囲気が伝わってくる。 「歩いてきているので分かっていると思いますが、ここから入口までは一本道です。 小銃で対処可能ならここで対処しますが、基本的には入り口までモンスターを連れていきます。その為、途中で私が倒れたら遭遇する危険性がある事を必ず忘れないで下さい」 「万が一、崎村1曹が倒れた場合の合図はありますか? 残された場合、排除できたのか、危険があるのか判断がし難いです」 全員が息を飲んでいる中、俺が質問を投げ入れる。 崎村1曹の死を踏まえた質問なので、失礼かもしれない。 しかし、自分の命がかかっている事なので、疑問を抱えたままではいられない。 「排除できた場合には、クリアと大声で叫びます。発砲後の為、声を張っても悪影響は無いと判断します。その声を聞いたら全員脱出行動を再開して下さい。 逆に発砲音が無くなっても声がかからないなら、危険を承知の上で脱出行動を行ってください」 一度言葉を切って、全員がこの場合の行動を理解する時間を与えてくれた。 少し待っても言葉が紡がれる事がないので、理解したと崎村1曹は判断したようで言葉をつづけた。 「モンスターと遭遇しなかった場合でも別階層に移る必要はありません。階段等を見つけたら戻って来てください」 崎村1曹そう言って、俺たちに行動をする事を促した。 俺は一度深呼吸をして、今聞いた言葉を再度反芻する。 これ以降の行動はプロが随行しないので、個人の判断が生死に関わる。 再度警戒行動を開始するように意識を切り替えて、担当している道に歩いていく。 崎村1曹がいない…… たったそれだけの違いなのに、喉がカラカラし呼吸も浅くなってくる。 心臓の音も聞こえてくる気がする…… ダンジョンに入る時以上の緊張が、今俺の全身を巡っている。 なんとか緊張を和らげようと、今日の夜の事を思い出す。 そう、俺には夜のしゃぶしゃぶが待っている! そう思いながら、暗闇になれた目でも見通せない他より大きめの道に、少しづつ足を進めていく。
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