蓮の音 - はすのね -

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 教室の入り口のところにいた男子が「安堂!」と私を呼んだ。何かと行ってみると、ドアの向こうに、柿沢くんがいた。封筒をぐいっと差し出してくる。 「あー、この間の、プリントアウトしたから」 「あ、何だ? 何だ? 意味深だな。手紙か? ラブレターか!」  封筒。男子と女子。  それだけで結びつける想像力の無さったら、呆れる。 「ああ、ありがとう」  私は中から写真を取り出し確かめる。ラブレターと言った男子が勝手にのぞき込んでくる。 「何や、すげえな、瞬が描いたんか。え? 写真? こんなのどこで撮ったんや?」 「中央公園だよ」  身近な公園と知り、さらに驚いている。  写真は、あの最後にかっと煌めいた瞬間をとらえている。 「すごいね。あの一瞬がよみがえる。よくとれてるね」 「別にあの時は何も計算してなかったから、カメラの力や。もともと写真の方は専門でないし」 「それでも、画面の切り取り方とか上手だよ。いい題材を見逃さないように、カメラ持ち歩いてるんだね」  柿沢くんは少し照れくさそうに、口を尖らせる。 「まあそうやけど。でもその虹は、俺が見つけたんでないし。声掛けてくれて良かった」  その時、何でそんなことを言ったのかよくわからない。考えるより先に口走っていた。 「なら、また私が何か見つけた時は、写してくれんかな」 「だから、俺は写真は専門でないって」 「でも構図が決まってるし。それにほら、カメラの性能もいいしね」 「ああ……うん。わかった」  柿沢くんは、ちょっと困ったように眉を下げる。  きっと彼は、わかったと言えば話が終わると思っていたのだろう。二人がいっしょに行動しなければ、私が見つけたものをすぐには写せないからだ。  これから先、そんな偶然はないだろうと高をくくっていたのだ。
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