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家まであと少しというところに、お寺があった。
門前にある大きな甕の中からすうっと茎が伸びている。その先に、青々とした丸い大きな葉が開いている。葉をかき分け、さらに茎を伸ばして大きな白い花が咲いていた。
ふっくらと手を合わせたようなつぼみもあって、姿勢よく真っ直ぐ青い空を目指している。その姿にほれぼれと見とれていると、花びらが一枚、ふぁさりと落ちていく。足元に落ちた花びらは大きくて赤い縁取りがある。
私は荷物を置くと、それを拾い上げてみる。厚みがあり、しっとりとしている。持ち帰りたいと思うが、お寺のものを勝手に持っていったらバチが当たると思い直す。そっと甕の中に落とす。
その時、きゅるるるとお腹が鳴って、お寺を去った。花を見ている時には気にしていなかったセミの声が、また大きく聞こえてきた。
「お寺の前にある白い花って、何ていう名前なん?」
お昼ご飯を食べながら、ばあちゃんに尋ねる。するとあきれた顔で笑われた。
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