蓮の音 - はすのね -

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 帰り道にある中央公園に差しかかる頃、ぽつりぽつりと雨が降り出した。  どうしよう。このまま自転車で帰ってしまおうか。  一瞬の迷いで出遅れた。雨足はとたんに強くなる。私は公園の中にある、ガラス張りの休憩所を目指す。その横に自転車を停め、中に飛び込む。  ハンドタオルで濡れた髪や腕を拭いながら、激しく降る雨を見つめる。  ガラスに雨のしずくがいくつも筋を描く。まるで水槽の中にいるようだ。  国語で『篠突く雨』と出てきたけれど、こんな雨のことなのかなと思う。言葉だけで知っていたことと自分の目で見たものを結びつけるって、大事や。  経験に勝る知識無しだ。あれ? 百聞は一見にしかず、の方かな? スマートフォンを取り出して確認する。 「え! おんなじ意味なんや!」  思わず声に出してしまい、慌てて周りを見回す。すると向こうに先客がいた。きまり悪くて首をすくめる。あれは隣のクラスの柿沢(かきざわ)(しゅん)くんだ。名前は知っているけれど、話したことは無い。  彼は絵を描く。美術部に入っていて、コンクールで賞をもらっている。大きなキャンバスに描いた山の絵が廊下に飾ってある。自分の絵がみんなに見られているって、どんな気分なんだろ。美大とか志望してるのかな。
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