蓮の音 - はすのね -

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「いいけど。何組の誰?」  ああ……。  自分のことを目立つとは思ってないけれど、そんなに認識されてないのかと、がっかりする。制服を見て、かろうじて同じ高校だとわかってくれたのだろう。 「三年三組の安堂はす()です」  さっきまでの気安さが恥ずかしくなり、急に敬語になる。 「隣か。俺は柿沢瞬。できたら教室に持っていく」  私が「はい」とも、「よろしく」とも言いかねている間に、彼はさっとリュックを担ぐと、自転車に乗り行ってしまった。  私も自転車のサドルのしずくを拭き、帰ることにした。  私の家がある通りに差しかかる。「商店街」と名前がついているだけあって、かつてはお店が連なっていたらしい。じいちゃんやばあちゃんは、懐かしがってその頃の話をする。 「おしんめさんのお祭りに、行列がうちの前を通るやろ。うちの町内にはちゃんと山車があっての、それを引いたもんやわ」 「山車って、三国(みくに)まつりみたいなの?」 「ほやあ。立派なもんやわ。あれ、今どこにあるんやろの」
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