友達のみおり

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友達のみおり

ライブまであと1週間。 スタジオや部室での練習と、カラオケでの自主練を繰り返し、その時に向けて勤しんでいる日々を過ごしていた。 お昼休みのチャイムがなり、講義室から真っ直ぐ喫煙所に向う。 大学の喫煙所は中庭の隅にあり、ガラスに囲まれ、中には机と灰皿、そしてクーラーだけという喫煙者には機能的な場所になっている。 椅子ぐらい置いて欲しいと喫煙仲間と愚痴るのだが、座ってしまうと動けなくなるのでこれはこれでいいかとも思っていた。 外側からみおりがいることを確認出来ていたため、ドアを開けると同時に声をかける。 「おつかれみおり! 今日も練習しよー!」 「うん、講義終わったらね」 今日の時間割は、みおりの方が1限多いらしく、終わったら私のマンションに来るという話で纏まった。 みおりとは大学の喫煙所で出会い、話をすると性格も合い、音楽が好き同士、仲良くなるのに時間はかからなかった。 同じ軽音サークルに所属し、お互いにボーカルとして違うメンバーでバンドを組んでいる。 いつもの練習場所は私の家から徒歩10分ほどの駅前のカラオケだ。 「よっ!」 「……っ!」 入口のドアに背を向けていた私は、人が入ってきたことに気づかず、後ろからガバッと肩を組まれたことにビックリしてタバコを下に落としてしまった。 「あ! もー! 危ないじゃないですかー!」 姿を見なくても声で誰なのかがわかった。 落ちたタバコを指先で拾い上げ、フィルターに息をふきかけた後もう一度吸う私に、「うわっ、こいつ汚ねーな」なんて言うあきひろさん。 誰のせいだと心の中で呟いた。 立ち上がった私の肩にもう1度腕を回し、困惑した顔のみおりに気がついたあきひろさんが自己紹介をする。 「あきひろです。よろしく」 格好つけながら手を差し出し、握手を求めたあきひろさんの手に、不信げな視線を向けるだけのみおり。 「みおりです」 「あれ? 見た目に反してクールだね」 あきひろさんは、特別気にもせず、空振りした手を私の首に巻き付け、後ろから抱きつく形になった。 うわ、この2人、絶対相性悪い。 「あきひろさんは、ここの卒業生なんだけど変な人だから、まあ、関わらなくていいと思うよ」 「酷いなあ、みさきぃ」 場を和ませようと冗談を言う私に、ふふっと笑ったみおりは、あきひろさんが背負っているギターを気にしながら、「もしかしてライブの企画者ですか?」と訪ねる。 「みおり知ってたの? 今回のライブ、外部の人が企画したこと」 「はじめ先輩が言ってたよ」 「外部の人……。ねえ、みさきちゃん、冷たくない?」 タバコを持つ手にお構いなく、あきひろさんは自分の頭をグリグリと私の横顔に押し付けてくる。 ウェーブした黒髪が私の顔に触れ、少しくすぐったい。 「ちょ、髪の毛燃えますよ〜」 なんて、あきひろさんとじゃれていると、むくれた顔をしてみおりは「みさきは、みお以外には冷たくていいんですよ」と言った。 みおりは、自分のことをみおと呼ぶ。大学生にもなって自分のことを名前で呼ぶのはどうかと思うが、みおりは小柄で可愛らしい雰囲気なので許されるタイプなのだ。 「みおりちゃんは、みさきのことだいすきなんだね。俺もだけど」 「みおの方が愛強いですから」 2人から好かれていることが嬉しくなり、みおりの目を見て「私もみおりのこと、大好き」と伝え、あきひろさんにも伝えようと肩に乗る頭の方へ向いた。 ……顔ちっか。 不意に目が合ったかと思うと、あきひろさんは私の肩に顔を埋めた。 「あ、照れた」 そう言って、みおりがあきひろさんを指さす。 「照れてねーわ! 近い! 離れろ!」 言葉とは裏腹に強く抱き寄せられ、暴れるあきひろさんに揺さぶられながら、チラッと目線を向けると、髪の毛の隙間から耳が赤くなっているのが見えた。 「あきひろさんが離さないと離れませんよ」 「じゃあ、一生離さねえから」 耳元で囁くあきひろさんの声に、腰がゾワゾワし思わず耳を抑えた。 「てかさ、タバコ1本くれる? 箱ごと落としちゃって」 パッと私から離れ、両手を合わせて、てへっと笑うあきひろさんに対して、本当に年上か聞きたくなる。 今度タバコ奢ってくださいねと冗談交じりに言いながらタバコを一本あげると、吸い終わったら買いに行こうと提案された。 「ふふ、次会うための口実ですよ」 「ちょ、みおりちゃん、この子人たらしなの?」 「まあ、そうですね。みさきのこと嫌いな人はいないと思います」
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