OBのあきひろさん

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OBのあきひろさん

「あ、はじめせんぱーい!」 講義が終わり、別校舎からグランドを渡って本校舎へ向かっている時だった。 中庭にあるテーブル椅子に座る2つ上のはじめ先輩を見つけ、声をかけながら駆け寄る。 「おー、おつかれみさき」 「おつかれさまです! 何してるんですか? って誰……ですか?」 はじめ先輩の向かい側には、この大学で見かけたことが無い男の人が座っていた。私の問いかけが、自分へ向けられていることに気がついたその人は、こちらに顔を向けながら、初対面にしては失礼な言葉を投げてきた。 「うわ! 金髪ギャルじゃん!」 結構年上に見えるその人は、緩くパーマを当てた肩まである長い黒髪に、顎髭、てれーんとした服装をしている。 とにかく見た目は怖そうなのに、喋ると陽気でバカっぽいギャップに唖然とした。 はじめ先輩は隣で笑っている。 「……ギャルじゃないです」 目指している訳でもないギャル呼ばわりは心外だったため、不貞腐れながら答える。 「まーまー、ここ座りなよ」 口を尖らせた私を気にもとめず、グイッと私の右腕を引き、誰かわからないまま隣に座らされた。 「OBのあきひろさん」 私の顔を覗き込みながら自分を指さし、にっこにこな笑顔で、自分をさん付けにするOBのあきひろさん。 「はじめまして、OBのあきひろさんは何しにここへ?」 「まず、自己紹介しよう! 何ちゃん?」 「軽いですね、1回生のみさきちゃんです」 そう自己紹介をすると、「若いね、みさき」と、ちゃんを付けない明け透けなあきひろさんに不覚にもふふっと笑ってしまった。 「みさきは何かサークルに入ってるの?」 「軽音サークル入ってますよ! ボーカル!」 「えっ」 口元に手を当て驚いた顔をしながら、あきひろさんは、はじめ先輩の方へ振り返る。 何に驚いているのかわからず、はじめ先輩と私はキョトン顔。 「おい、はじめぇ、こんな子入ったんなら言えよ、絶対面白いじゃん!」 あきひろさんは、はじめ先輩の肩を掴み、ワナワナと震え少しテンション高めに言った。 「いや、言いましたよ、楽しい子入ったって」 「は? お前みさきのこと狙ってんのか?」 「それは無いっすね」 キッパリはっきり言う、はじめ先輩。 「酷いです、せんぱーい」 なぜか告白してもないのに振られた感じでやり切れない。でも、この適当なやり取り嫌いじゃないんだよね。 「みさきはコイツ狙ってんのか?」 「や、私も無いですね」 「ぶっははっ、逆に両思いじゃんおまえら」 「みさき、後で覚えとけよ」 睨みを効かせるはじめ先輩に、「えー! 先輩が先じゃないですかー!」って言い返しといた。 「ところで、話の流れ的に、あきひろさんは軽音サークルだった人なんですか?」 「過去形やめろ」 「あ、それ次のライブの出演メンバー表じゃないですか?」 テーブルに置いてある紙が目に入り指さし聞くと、はじめ先輩が渡してくれた。 その紙には、この大学でできたバンド名が演奏順に並んでおり、その一番下、最後に演奏をする知らないバンド名を見つける。 「このトリのバンド、見たことな……」 そこまで言ったところで、はっと気がつく。 あきひろさんに目を向けると、目元近くでピースを見せた。 「そう、あきひろさん達がこのライブの企画者なんだ」 「だから次のライブは大学外でやるんですね」 はじめ先輩が教えてくれて、もう1度あきひろさんに2人で目を向けると、今度は不服そうな顔をしていた。 「卒業したけど、まだ気持ちは軽音サークル所属中だし」 「大学外」と言った私の言葉を気にしているみたいだ。 それでも、あきひろさんは卒業してからの生活も悪くはないようで、充実していると話していた。 「みさきは何番目のバンドなの?」 「私はこの4番目です」 「楽しみにしてる。全力で暴れような」 「はい! よろしくお願いします!」 楽しみでしょうがないという気持ちで、敬礼して見せるとあきひろさんは笑った。 その笑顔に、少し胸が高鳴った。
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