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「わぁ」
メインは、表面をパリパリに仕上げたサバの塩焼き。程よい塩気と、たっぷり流れ出る魚油が食欲をそそる。
一口食べた美智子さんは、すぐに箸を置き、手で口元を抑えた。何度も何度も、何も言わず頷いた。目尻で光る涙の粒が大きくなって、やがてお盆の上に落ちた。
「……おいしい」
明希も鼻をぐずぐずさせながら、涼やかなガラス皿を手に取った。中心高く盛られたレタスとトマトのサラダは、あらかじめドレッシングの上から粉チーズを掛けてたんぱく質をプラスしてある。
「……私、いなくてもいいかもね」
泣き笑いする姪を見て、美智子さんは横から抱き寄せた。
「明希、素敵なお友達に恵まれて良かったね。おばあちゃんも、きっと喜んでるね」
美智子さんは俺たちに向き直り、明希そっくりの笑顔を咲かせた。
「皆、ありがとう」
いえいえ、と言いながら佐野が鼻をかんでいた。
美智子さんも差し出されたティッシュで目元を拭いながら、語りだした。
「私の母――明希のおばあちゃんは病気でね、もともとこの夏が峠だったの。それでこの子の両親が付きっきりで介護してたわけ」
「だからここに?」
明希は言葉を詰まらせながら大きく頷いた。
「私、寂しかったけど――皆においしい、ご馳走さまって言ってもらえて、幸せだった」
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