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「今さら? 遅すぎ」
刺々しい言葉がどこからか聴こえてきて、俺は慌てて周りを見渡した。
明希が階段の壁裏からひょっこり現れると、美智子さんの隣に立った。――鼻の上が少し赤かった。
「私こそごめん。央が頑張ってるの知ってるくせに、無神経だった」
しおらしく謝る明希を見て、喉がきゅんと痛んだ。
「俺の方こそごめん」と改めて伝えると、ようやく笑ってくれた。
幼い頃からこうだった。ゲームを取り合ったり、待ち合わせに遅刻したりして、何か言い合うと俺が謝って、明希も謝って、仲直りした。何も変わってない。高校生になって焦っていたのは、俺だった。
「あ、あのさ――」
「じゃあまず、明日の朝は午前4時半に起床」
「はい!?」
「おにぎり。翔平くんも悠人くんも自分で握って持っていってるんだよ? 知らなかったの?」
知らなかった。志築の巨大モンスターおにぎりはあいつの手作りだったのか。
「菓子パンは砂糖と脂肪が中心で、ご飯にある栄養素はほとんど入ってないんだって。私も甘いのは大好きなんだけどね」
そう言うと明希は足元の棚から透明な整理箱を取り出した。
「この海苔とかふりかけとか、自由に使っていいから」
俺の食事改革が、始まった。
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