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それ、無数の、目玉だったんだ。
小さな小さな目玉が、真っ黒な集団になって蠢いてるんだよ。で、蠢きながら、じーっとこっちを見てるんだ。恨みがましいように、妬ましいように。
「ひっ……うわああああああああああああ!」
暫くして弾かれたように、Bが悲鳴を上げて逃げ出した。その声に金縛りが解けた俺達も、慌てて階段を駆け下りるBを追いかけたんだ。
下駄箱で上履きを履き替えてスニーカー履いて、昇降口から転がり出たところでBが叫んだ。
「な、なんだよ!なんなんだよ、あれ!あの腕!」
腕?
あの黒い靄の中にいたのは、目玉ではなかったのか。
俺がぽかんとしてると、何言ってんだよ!とAが声を上げた。
「あの黒いモヤみたいなやつだろ?中で蠢いてたのは腕じゃなくて指だったぞ」
「はあ!?」
「いやいや待ってて、足だっただろ?無数の足!」
「お前こそ何言ってんの!?」
あっけに取られるしかない。
「……俺、見えたの目玉だったんだけど……」
Aは指。Bは腕。Cは足。そして俺には、目玉が見えていた。全員同じものを見ていたはずなのに、見えたものが違ってたんだ。
正直、気味が悪いどころの話じゃなかった。誰かが嘘をついていると思いたかったけど、残念ながら全員目がマジだったからそんなことも言えなかった。
結局、気持ち悪すぎるし、先生にバレたら叱られるし、今日見たものはなかったことにしようってことになって解散した。本当に、身体のパーツとやらを女の子が奪いに来たら怖いって、まあそういうのもあったんだよな。みんな無駄にプライド高いから、ビビリと思われたくなくて言い出せなかっただけで。
で、小学生の時の話は、これで終わり。
暫くの間びびってたけど、その後は特に何も起きなかった。そのせいか喉元過ぎればなんとやらというか、俺達は怖いって気持ちもだんだん薄れてきて、少しすれば例の件を笑い話で語って回るくらいになったんだよな。
俺達四人は小学校を卒業してからもずっと仲良しだった。中学校も一緒だったし、高校より後はバラバラになったけど、互いに連絡先も交換してさ。大学生になった今でもずっとLANEしてたし年賀状も交換してたんだけど――。
話、これで終わらかったんだわ。
去年の四月。工場で軽作業のアルバイトしてたAが、事故に遭った。
機械に指を巻き込まれて、右手の指を四本切断することになったんだ。
Aがあの階段で見たのは指だった。でもこの時は、ただの偶然、不幸な事故に過ぎないと思ったんだよな。――その四ヶ月後に、高卒で工事現場で働いてたBが事故にあって、腕を吹っ飛ばされるまでは。Bは、あの腕を見たと言ってたんだから。
トドメが、Cなんだ。
つい、一週間前なんだよ。……あいつ、交通事故に遭って。両足、切断したっていうんだ。
もうわかるだろ。全員、今になって――あの時見たパーツをどんどん失ってるんだ。まるで、今更女の子の呪いが発動したみたいに。
ってことはさ。残るはもう、俺しかいないわけじゃん?
そんなことあるわけないって思うだろ。
俺だってそう信じたいんだよ。俺、急いでお祓いの予約取ったけど、人気のとこだったらしくてやってくれるまであと半月待たないといけなくてさ。それまで俺、無事で済むのかって思ったら不安で不安で。
……もしかしたら、俺、俺も。
このまま、め を
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