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in the blue sky
ハナの購入した靴底に仕込まれた鉄板のような金属は青生生魂と呼ばれる符呪素材であった。
ヨナタンは餞別としてその青生生魂に符呪をしてあげようと、ハナをラボへとつれてきた。
相変わらず散らかった部屋だが、その隅の小部屋は整頓され、符呪のための儀式台座が設置されている。
「では、ファナさん。あなたの靴へ符呪を行おうと思います」
「おー」
パチパチと拍手してハナは台座に置かれた購入したてのブーツを眺めた。
そして非常に素朴な疑問が口から零れた。
「靴から冷気がでるようになるの? しもやけにならない?」
それを聞いて、ヨナタンはジト汗を垂らしてギギギと、ハナへ首を折り曲げた。
「あ、あれ。違うのか。私、冷蔵庫のやつと蝶がでてくるのしか見た事なかったからさ……」
「あれは、符呪のほんの一部ですよ。エンチャンターが知識と技術を持ってさえいれば、森羅万象を符呪できるとされています」
「へー? じゃあ、ヨナタンだったらなんでも符呪できるんじゃないの?」
ハナが興味津々に聞いてくれたのだが、ヨナタンはちょっぴり困った顔で笑う。
「いえ、なんでもというわけには流石に……。しかし、そうですね……大抵は、と思っていただければ」
「それってやっぱり凄いことなんだろうなあ。はは、ごめん。ヨナタンの凄さが全然わかんなくて……」
申し訳なさげなハナの反応で、ヨナタンは「いえいえ」と首を振って取り繕う。
「それでは、何か希望の符呪はありますか?」
「やー、その……希望というか、さっぱりわかんないから……ヨナタンに任せてもいいかな?」
「……そうですね……、一例を挙げるなら、狩りをする人びとは<消音>の符呪を付け、エモノに気付かれないようにするだとか……、疲れを軽減するために<休息>を符呪するのも一般的ですね。ほかにも変わったところだと<水上移動>だとか……」
色々と符呪の内容を教えてくれるのだが、ハナはいまいちピンとこない。そもそも靴に特殊な魔力を込められると言われても、現代社会にはないものだしハナの頭に当てはまるのも難しいことではあるが。
そう考えてハナは「あ、それなら……」と一つ閃いた。
現代社会にもあるハナにも馴染むものであれば、使いこなしやすいかも知れないと思いついたハナは、ヨナタンに提案してみた。
「ねえ、ローラースケートみたいなのできないかな?」
今度はヨナタンが怪訝な顔をする番だった。ヨナタンはローラースケートが理解できなかったのだ。
「ローラー……スケートとはどんなものですか?」
「えっと、靴の底に車輪がついてるんだ。それで走るからラクチンだし、スピードもでるし面白いんだ。子供の頃好きだったんだよ」
「靴に車輪!? 歩きにくいのでは!?」
「ああ、歩くためのものじゃないもんな……どっちかというと滑るって感じで……」
「滑る? ……しかし……。いや、まてよ……? しかし、こんな符呪は未だ誰も……」
ヨナタンは何やらハナの提案に対して悩み始めてしまった。
ちょっと、無理を言ってしまったかなとハナは反省して、ヨナタンに「無理ならさっきの<休息>でいいけど」と申し出るのだが、ヨナタンはその声を聞かない。
黄金の髪をガシガシとかき、うんうん唸り、何やら頭の中で構想を練っているようだった。
「おうい、ヨナタン? ヨナー? よなちゃんー?」
まったくハナの声が耳に入っていないヨナタンに対して、遊び半分に色々と声かけしたハナだったが、さっぱり効果は無い。ヨナタンの瞳がらんらんと煌めいて、なにかの空想にのめりこみだす。
「だめだ、全然聞こえてない」
そういえば、魔法の事になるとほかの事が疎かになるだとか言っていたのを思い出したハナは、その結果の汚れたラボを見て、なるほどと納得した。
ヨナタンがシンキングワールドから戻ってくるまで、ラボの掃除でもやってやるかと、やれやれと部屋の掃除に移るハナであった。
……およそ一時間して、ヨナタンが弾かれたように動いた。
「来た! これでいける! すごいぞ! これは新発明だ! 全世界初の快挙となるかもしれない!」
「な、なになに、ダイジョブ?」
割と大人しめというか落ち着いた印象が多かったヨナタンとは思えないハキハキした声とその夢中な表情は、少年のように純粋な顔をして輝いていた。
「ファナさん! あなたの靴はこれで世界に一つだけのマジックアイテムとなりますよ!」
「え゛。なにそれ、変なのにしないで」
「変だなんてとんでもない! ファナさんがおっしゃったローラースケート! それですよ!」
一人盛り上がっているエルフの魔法使いに、ハナは不安が思い切り膨らんできた。ハナの買ったブーツには車輪などついていないし、どういう符呪を行えば『ローラースケート』になるというのだろう。
符呪台の上に置かれたブーツにヨナタンが手をかざす。昨日見た巻物への符呪とはなにやら迫力が違う。
靴の底面が眩く点滅し、ゴウゴウと嵐のような風鳴りに似た音がラボに響き始める。
「御覧なさい! これが青生生魂の効果ですよ! 素晴らしいマナ伝道でしょう! ハハハ! いえーい!」
最後の「いえーい」は、ハナとハイタッチだった。引き気味のハナの右手にヨナタンの平手がパチンと入ることになった。
「ヨナタン、キャラがブレてる……」
さながらマッドサイエンティストだった。ああ、そうか科学のないかわりの、魔法なのだから、魔法使いというのはつまり、科学者だ。研究者なのだ。そういう人種は良くも悪くも常人離れしたところがあるのかもしれない。
そんな発想でハナは己を納得させながら、ラボに吹き荒れるマナ嵐と共に響くヨナタンの奇声を引き攣った笑みで引きながら見ていたのだった。
「さあ、出来ました! ファナさん、私からの最上の符呪アイテムとなると思います」
「お、おう……」
手渡されたブーツの見た目はそのままだが、まだ少し熱を持っていた。ほんのりと暖かいブーツはなんだか履くのを少しだけ戸惑わせてしまう。
「お履きなさい」
ヨナタンの青の瞳が、ずずいと訴える。口調は丁寧だが、威圧する瞳が言うのだ。「履け」と。
しかたなく、ハナはそのブーツに足を通す。
靴底はほんのりと熱いが、これといっておかしなところは無い。普通に靴だった。
「……? なんか変わってるの? 特に違いがわかんないんだけど……」
「それでは、外へ行きましょうか。できれば広いところがいいですね。……そうだ、昨日の木材工場へ行きませんか」
うずうずといった表情のヨナタンが背中を押すようにハナを外へ連れ出し、足早に街の外へと向かうのだった。
木材工場付近まで来て、開けた丘のようになっているところでヨナタンは足を止めた。
「さあ、ここでいいでしょう。今のところ、履き心地はいかがですか?」
「うん、フツーに良いカンジだけど……」
足にしっかりフィットしているし、金属が入っているとは思えないほど、靴底は柔軟性がある。そして、不思議なことだが、シューズのように軽く感じる。最初にブーツを持ったときはそれなりに重さを感じた気もするのだが、履いて歩いているとその脚への負担は軽々としたものだった。
「では、私がそのブーツにどういった符呪をしたのか、今こそご説明しましょう! 何を隠そう、私が符呪したものは<風>でございます」
「風……って、あのヒュルリラ~ってかぜ?」
「はい。通常、靴に<風>をエンチャントする事はありません。風が足先をそよそよとくすぐるのがお好みであれば別ですが」
ハナは靴をもう一度確認するように、目を落とす。風、と言われてもそれらしい感覚はない。
強いて言うなら、クツが軽い、と思ったが、もしかしてそれが符呪の影響なのだろうか。
「特別には、何も感じないけど……」
「ええ、そうです。普段歩くような場所で車輪がついていると邪魔になり、満足に足を踏ん張れないでしょう。例えば、登山をするときなどですね」
たしかに、登山にローラースケートは履かない。
「そこで、私は考えました。普段は歩き、必要な際は『滑る』ことが出来る靴を! それが今回の新発明<風乗り>です」
ヨナタンはドヤ顔で、背景に『ババァーン!』とでも書かれそうな勢いで解説してくれた。
「ずばり、その靴は風の上を滑る事ができるのです」
「風の上を、滑る?」
にわかに想像できない。ハナは周囲をくるりと見回して、肌に感じるそよ風を感じて、やはり首をかしげるしかない。
「幸いマーチは風が吹き続ける地域としても名高いですから、気候条件にあいます。あとは使い方次第だと思うのですが……いかがですかファナさん。風滑りを見せていただきたいのです」
そうは言われても、風に乗るというのが実感として難しい。
今吹いている風はサワサワとしたそよ風レベルではあるが、このくらいの風でも『乗る』ことができるのだろうか……。
「じゃあ、ちょっとやってみるけども……」
軽く片足を持ち上げてみる。
すると、まるで小川のせせらぎの中に裸足で立っているような感覚が足に感じ取れる。
「あ、なんか感じる。流れ、みたいのが……」
「その流れに軽く身を任せる気持ちで、足を差し出してみてください。筋肉の力をゆるめ、ばねのようにしなやかに……」
ふわっ。
「あっ――?」
風の流れに持ち上げた片足が持っていかれる感覚がした。そのままだとコケてしまいそうで、ハナは慌てて足を地面につけた。
「うわ、やばい。乗れそう」
「風に乗り、滑るのです。歩いてはいけません。空を踏みしめる事はできないのです。上昇気流などがあれば、舞い上がる事もできるかもしれませんが……」
と、ヨナタンが解説を行っている最中に、ハナはその片足を軽く上げて、風をみつける。そのまま軽く飛び乗るように跳ねてみた。
サァ――ッ!
「おっ、おっ、おおっ、おー!?」
風の流れに乗り、ハナが丘を滑る。しかし、その足は地面についておらず、丘からどんどん浮き上がり、一メートルは浮いたまま滑ったのだ。
「やった! 成功している! <風乗り>の誕生だ!」
ハナは自分が空を飛んだようで、異世界に来て初めてその幻想的な力を自身で体験したように思った。つまり、感激したのだ。
瞳に映る異世界の風景が途端に広がって見えた気がした。風を見る事が出来たような不思議な感覚が胸をドキドキ躍らせる。
「ヨナタン! みた!? 飛んだし!」
「見ました! 流石です! かなりのバランス感覚と運動神経も必要とするかと思ったのですが!」
「もっかい! もっかいやるから! みてみて!」
ハナがはしゃいでもう一度丘の上まで駆けて、風に乗り――滑る。
風と一緒になったような感覚が少女の脚をなでる。そよ風は心地よく、少女のその空を滑る姿は、風の中でサーフィンをするようであった。
「はぁー! ははは! これいいよ! ヨナターン!」
上空から見下ろすとヨナタンが手を振るのが見える。慣れてしまえばもっとスピードも出せそうだし、更に上空にも上っていけそうだ。
あまりに爽快な空中スケートはハナを浮かれさせ、そして油断させた。
上に上がれば上がるほど、その風力は強くなるようで、突如強まった風の勢いに、黒髪が舞った。フードが風圧で捲れ上がったのだ。それに気をとられたハナがバランスを崩す。
「あっ」
まるで、空の階段から転げ落ちるみたいに、ハナの身体が空から落ちる。
復帰の方法が分からず、ハナは地面への激突を覚悟した。急降下の中、歯を食いしばって目をきつく閉じた時、がっしりと支えられた感覚とヨナタンの「ぐお」という悲鳴が聞こえた。
目を開けると、ヨナタンが抱きとめてくれていた。ハナが彼に覆いかぶさるように、丘の原っぱで二人倒れこんでいた。
「あた、あたた……。ファナさん、大丈夫ですか?」
「う、うん。ヨナタンは? 折れてない?」
「だ、大丈夫ですよ。私が魔法使いだからってバカにしてますね?」
平気だと言うように、にこりと笑うエルフの青年は少しだけ意地の悪さをみせた。ヨナタンなりの心配無用というジョークだったのかもしれない。
「それより、どうです? まるで鳥になったような気分でしたか?」
「うん! すっげーよ! ヨナタン! あんがとー!!」
ハナは未だ冷めない感激から、子供みたいにはしゃいでヨナタンに抱きつく。
「あはは! ファナさんのお陰なんですよ! こちらこそありがとう!」
ヨナタンも自分の発明がうまく行ったので、その心境はハナと同じだった。無邪気な二人がひとしきり笑ってから御互いに「いえーい!」とタッチする。
パチン! と響いた丘の中、ふたりは我に返った。
抱き合った二人の距離はちょっとばかり近すぎた。慌てて互いに離れて「いえーい」ともう一度小さく零した声が風に乗っていくのだった。
**********
二人はその後、昨日のエルフの女性のケガの様子と事件の話を聞くために、再度あの木材工場へやってきていた。
木材工場では、ダークエルフが四名作業していた。やはり首輪が働いていて、彼らは無感情に機械人形の如く仕事をこなしているようだ。
しかし、あの暴走したダークエルフは作業場には出ていないらしい。
作業場から少し離された所にコウマック夫妻の家がある。ヨナタンがノックすると、コウマックが扉を開いて、頭を下げた。
「坊ちゃん! 昨日は本当にありがとうございます!」
「いえ、奥様の様子はいかがですか?」
「はい、もうほとんど大丈夫ですよ。まだ仕事はできませんが、話すくらいはできますので、入ってくださいな」
コウマックが二人を家の中へと案内してくれた。
中には椅子に腰掛けた婦人がこちらを見つけて立ち上がろうとした。
「あ、そのままで構いません」
ヨナタンがそれを制止して、婦人を気遣った。婦人は「すみません」と言い、腰をゆっくりと降ろした。
「どこか痛みなど、残っていませんか?」
「ええ、大丈夫です。おかげさまですよ。本当に助かりました」
少し青ざめた表情をしているが、体の様子は問題ないらしい。ハナもヨナタンもほっと一安心した。
「つらいところ、申し訳ないのですが、昨日の事を詳しくお聞きしたいのです。一体なぜ首輪の支配が解けてしまったのか、何か心当たりはございませんか?」
エルフの女性が顔をしかめる。おそらくあの襲われたときの恐怖を思い出してしまったのだろう。
しかし、由々しき問題である以上、ヨナタンもそこは追求せざるをえない。女性もそれは分かっているようで協力的に回答したかったのだろうが……。
「……それが私には何も……気がついたときには、あのゴズウェーがオノを手に襲ってきていて……」
「ずっと監視はしておりましたか?」
「……いえ、ゴズウェーには作業命令を出した後、暫くは監視をしていたのですが、小火が出てしまって、その時に目を離したんです」
ヨナタンがコウマックに視線を投げた。
それを受けて、コウマックはこくりと頷いて、返事をする。
「妻も私も、この家の裏の薪置き場に火が付いていたのを見つけて、慌てて火を消していたんです。その間は奴隷の監視は外れていました」
「小火の原因は?」
コウマック夫妻は二人で首を振る。
「少し見せてもらいます」
ヨナタンが断りを入れて薪置き場へ向かったらしい。ハナはそのままコウマック夫妻の家で聞きたい事があったので、質問を重ねていく。
「……あの、昨日の暴れたダークエルフはどうしたんですか」
「……ああ、アイツなら地下の牢屋にぶち込んでる」
「話をしてもいいかな?」
ハナが訊ねると、コウマックが頷いてくれたが、女性の方は青い顔を更に真っ青にしたようだった。かなり恐ろしかったのだろうし、自分を襲った人間がすぐ足元にいるのもまた恐怖なのかもしれない。
気の毒とは思うが、ハナにはどうしようもない。お辞儀をして、地下のカギをあけて貰い階段を下りていく。
地下はひんやりとしていて暗かった。明かりは壁掛けのランプだけで、コウマックがそこに火を入れてくれた。
すると、奥には牢屋が設置してあり中には鎖に繋がれた昨日のダークエルフが力なくたたずんでいるのが見えた。まるで鎖にぶら下がるように両手を挙げて全身を吊られている。首ががっくり垂れていて、かなり疲労困ぱいしているように見えた。体はいたるところ赤く晴れ上がっている。
「……なんか、やつれてるように見える」
「鞭打ちをしてやったからな。当然の罰だ」
「…………話はできるよね」
沸き起こる嫌な気持ちを押し込めて、ハナは牢屋の側に立った。ひどい臭いがして、少し顔をしかめてしまう。
「なあ、昨日何があったのか、話せるか?」
「……あ、う……」
首が持ち上がった。生気を感じない瞳がギョロンとハナを捉えて、話そうとして口がパクパク動く。しかし、枯れた声がかすれて響くだけだ。
ハナは自分の水筒を差し出して水を飲ませてやった。
コウマックが何か言いたそうにしたが、腕組みをして険しい目を奴隷に向けるのみで踏みとどまった。
零しながらもなんとか水を飲んでくれたダークエルフは、いちど大きく息を吐いた。
「昨日、暴れる直前に何があったか、話してくれ」
改めてハナが問うと、ダークエルフが静かに答えた。
「丸太の切断をしていた……」
ぽつりぽつりと零される言葉はやはり感情がない。首輪が効いているらしく人格が封印されているのだろう。
「小屋のあたりで煙が上がった……」
小火のことだろうと、ハナは頷いた。
「それで?」
「エルフが来て、何かを口許に当てられた」
その言葉にコウマックがツバを飛ばしながら口を挟んだ。
「デマカセを言うんじゃないッ!」
仲間のエルフがそんな事をするものか、やったのはお前らゴズウェーの仲間だろう、と決めてかかっているのだ。『不良』の枠組みで計る教師や警察と同じ目だとハナは思った。
「否定は後からでもできる」
ハナのプレッシャーを伴った声がコウマックを制止させた。「今は黙れ」と言っているのだ。
コウマックがぐっと堪えながらも、引いてくれた。険しい表情のまま、ダークエルフを睨みつけ拳を強く握る。妻を襲った事が本当に許せないのだろう。
その気持ちは分かるが、ハナは追求をしていかなくてはならない。会話を邪魔されたくはないのだ。
「何かってなんだ?」
「分からない。臭いが……した。強い、におい…………酸みある臭いだった……」
ダークエルフはそれから黙り込む。
内容から考えて、そのエルフが薬品かなにかを押し当て、それからダークエルフは暴走したのだろう。
ドラマなどで何かの薬品を滲ませた布を口許に押し当てて気を失わせるようなシーンがある、それをハナは想像した。
――薬品?
(…………!)
思わず息を呑んだ。
ハナは思い至った。一つの仮説が浮かんだのだ。
強烈な臭い――。
――目が覚めたんだ――。
このダークエルフはそう言っていた。
セインの試験薬の『睡眠薬』。
あれも、刺激臭がした。ならば、睡眠薬を盛ったエルフが事件の犯人ではないか?
そうなると……セインのクスリを使う人間は……。
「秘密結社、ダレン……」
もし、服従の首輪の効果が、人格を眠らせて封印しているとしたら? その中に従順な奴隷の人格を住まわせているとしたら?
つまり、多重人格を産み出すのが首輪の魔法としたら……、奴隷の人格を『睡眠薬』で眠らせて、元の人格を目覚めさせたのだ。
もはや、ゆっくりはしていられない。
ハナは駆け出した。木材工場を走りぬけ、覚えたての<風乗り>で空を滑った。
コウマックが突然飛び出て行ったハナに驚くが、少女はそんなのことを気にして入られなかった。
――戻らなくてはならない。セインダールの元へ――!
少女は風のように、ひとすじマントを靡かせて、ドガフマウンテンに飛ぶのだった……。
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