帰って行った王子様

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帰って行った王子様

 「残念ね。」  ふいに、後ろで紅子の声がした。  「絵本に、まこと王子のハッピーエンドを書けば、良かったじゃない。」  「いいのよ。これで、王子は、絵本の世界に、帰っていったわ。これでいつでも、私は、王子と対話することができるもの。だって、王子のことは、私の作った物語になったんだから。」  「私の本も、書いてくれない? 私は女優でね、活躍して、素敵な俳優さんと結婚するのよ。」  「いやよ、王子は、特別だもの。あ、わかった。あなたは、昭和生まれだから、私のおばあちゃんにしてあげる。それで、私のおじいちゃんと結婚するの。祖父とは一度も、会ったことないんだけどね。」  「そうね。紅子だし。自分で言うのもあれだけど、焼き芋でも作って、食べようか。それで、食べ終わったら、そう書いて。あなたも家に帰れるわ。」  楽しい1日だった。  そして、気づいたら、OLの中里まこは、 自分の家の裏庭で、焼き芋をやいていた。  うららかな、平和な秋だった。
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