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すみれの小部屋で
王子はドロシーの腕の中で目が覚めた。毛布代わりの、ドロシーの、すみれの花のような、薄いシーツのような、1枚のドレスの中で。もう、太陽も真上に来て、お昼ごはんの時間だ。
結婚前の2人は、新婚のように、幸せな日々を過ごしていた。今では、王子の部屋は、ドロシーの部屋に、模様替えされている。
カーテンも、棚も、机も、みなドロシーの好みのものに。
「私のお父さんは、花屋だから、結婚式には、素敵なブーケを届けてくれるわ。お父さんが見つかればの話だけれど……。」
「大丈夫だよ。きっと、ご無事で、元気だよ。」
「そうね……。」
台所では、まこが、料理をしていた。とりあえず、パンプキンパイを作ることにした。それから、ジャガイモを切って、バターで炒め、目玉焼きも。
オニオンスープを作りながら、まこは泣きそうになった。
「やっぱり、私は、お姫様になっても、だめだったんだわ……。」
素敵な王子様が現れたと思ったのに、その王子は、まこの介抱もむなしく、別の美しい乙女と、ベッドタイムを、しかも、まこの家の2階の、王子の寝室で、味わっているのだから。
「せっかく、料理が上手になったのに。なんで私、こんなことしているんだろう……。もう家に帰りたい。」
すると、紅子が、なぐさめてくれるのだ。
「外国では、男の人同士が、恋人になるのが、あるらしいの。どう?
女の子同士で。」
そう言って、紅子は、まこの額にキスをした。
「冗談でしょ?」とまこがきっと睨んで、請け合わないと、
紅子は、
「ねえ、まこは本当に、あの2人が結婚すると思ってるの?」と、意地悪そうに聞いてきた。
「今のあの2人にあるものは、夢だけよ。今は、まこにご飯を作ってもらって食べているけれど、経済力もない。仕事も、将来のビジョンも。夢がすべてって言うのはね、脆い恋の一時の錯覚で、現実が見えた時、悲しいものよ。私は、恋愛経験ゼロでも、たくさんお芝居をしてきたから、わかるの。破滅する恋人たちを、見て来たから。」
まこは、紅子の言葉が怖かったけれど、それ以上に、惹きつけられる凄みがあった。
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