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時空の野原
まこは、王子とデイジーが別れたのを知って、嬉しかったのも束の間、やっぱり、悲しくなってしまった。
王子は、デイジーのいない部屋で、ずっと、ひとりで眠って、起きてこない。まこは、王子と初めて会った日のことを、思い出していた。
空から、王子が落ちて来て、まこが介抱してあげた時のこと。そんなことを思い出しながら、まこは、今日、王子のために、カレーを作ることにした。
でも、カレーを作るために、料理のレシピの本を開いたけれど、どういうわけか、一向に、作り方のページに、たどり着けない。こんなこと、今までなかったのに。今までは、例えば、シチューを作りたいと思えば、自然と、シチューのページが、めくれたのだ。
今日は、かわりに、〈絵本の作り方〉というページが、開いた。でも、ページは開いたけれど、タイトルだけで、あとは、空白。
仕方なく、まこは、自分の書きたい絵本の内容を、思い浮かべることにした。
例えば、こんな感じ。
〈むかし、むかし、王子様がいました。王子様のふるさとは、広い野原に建った、一軒の、赤いレンガの家。
戦争が終わり、やっと、王子が湖畔地方の、この家に戻った時、
奥さんのデイジーは、彼の心を癒すため、
毎日、美味しいごはんを作ってあげました。
デイジーは、最初から、料理が得意だったわけではないのです。
若い時は、それで、王子と喧嘩したこともありました。
でも、デイジーは、王子に会えない寂しさから、少しずつ、料理を覚えたのです。今では、王子の擦り切れた服も、綺麗に縫って、花の刺繡を、ほどこしてあげられます。
デイジーの家は、貧しい小さな花屋でしたが、今では、
針仕事で、生計をたてられるようにもなりました。めでたし、めでたし。〉
そして、まこは、野原の葉っぱや草の実を拾い、押し花にして、綴じた。
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