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彼はとてもきれいな歌を書いて、まっすぐに歌う。少しだけハスキーな声の分だけ切なさが加わる歌は、その頃の私にはなんだかちょうどいい温度で心地よくて…沁みた。
音楽仲間と恋人と友達と、そのどれと決めない関係のまま、互いの部屋を行き来したりもした…彼の山程あるおすすめ映画もみた。借りて来たり劇場にいったり配信を見たり、音楽系もそうじゃないのも。多分私の人生の中で一番映画を見たんじゃないかな。とにかく、彼とともにあった時間は、私にとっては、なんというか、とても、いい時間だった。
いよいよ、満を持して東京へ向かうという貴方に、一人暮らしなんかできるの?ツラいよ、しんどいよ、と、さんざん脅かすだけ脅かして、結局「いいんじゃない。」と言ったのは、応援と羨望と、心配と、それに勝手な希望と、ものすごくごちゃまぜな感情の上澄みだったって貴方は分かっていたかな。
“経験者”の私には、この頃こんなことがあって、こんな気持になって…と、貴方に起こる出来事や感情が、手に取るように分かったし、貴方を通して、もう一回経験するようで、結構ツラかったりもした。でも、もう一回追体験できて浮き立つ気持ちもあった。
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