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その間野は、アキラの答えを聞いて、疑い深い視線を向けていた。
「〈道化師の朝の歌〉はわかるけど、なんで〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉? 同じラヴェルなら、せっかくだし『夜のガスパール』に挑戦してみてもいいんじゃない? アキラくんはラヴェルにこだわりがあるみたいだし……」
「すみません、先生。どうしてもこの二曲が弾きたいんです」
熱意を込めて、冷静さも忘れずに。アキラは真剣な眼差しで間野を見つめる。
「ラヴェルの別の曲でもだめなんです。お願いします」
アキラは深深と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!わかった。わかったから」 間野は慌てた声で言った。「何があなたをそこまで駆り立てているか知らないけど、その二曲にしましょう」
「ありがとうございます」
頭を上げたアキラはとびっきりの笑顔で、心からの感謝を伝えた。
「ああ、またこの顔にやり込められてしまったわ……」
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