異聞 哀愁セレナード

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        2  数ヶ月ぶりに浴びるスポットライトが、なんだか懐かしい。  礼をする前とした後の一瞬で、ざっと観客席を見渡した。  アキラの視力は両目2.0だ。しかし、会場の人数が多すぎる。残念ながらの姿は発見できなかった。  両腕を鍵盤にのせる。とほぼ同時に、〈亡き王女のためのパヴァーヌ〉の第一音を鳴らした。  ショウと出会って、ピアノに出会った。  ショウのために、ピアノを弾き続けた。『ショウのため』。アキラは、それがピアノを弾く理由だと信じて疑わなかった。  ショウと再会してからは、ピアノが好きだという気持ちに、素直に向き合えるようになった。ピアノを弾く理由なんて『好きだから』。それだけで良かったんだ。  十年前のことは、まだ伝えていない。今日まで堪えたのだ。  今日が本当の再会の日になることを願って。  彼にすべての感謝を伝えられる日になることを願って。  (出会ってくれて、ありがとう)
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