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「誰かと話してるみたいだったから、出ていくタイミングを見失ってたんだよ」
「聞こえてたかもしれないけど、外山がアキラによろしくって」
「伝言ありがとう。話の相手と内容までは聞こえてなかった」
ショウは露骨にほっとした様子だ。
ショウとは異なり、アキラは完璧なポーカーフェイスを使えるはずだった。しかし自分が今どんな表情をしているか、自信が無い。
「素晴らしい演奏だった。“道化師”が終わったあと、思わず立ち上がって拍手したよ」
ショウは無邪気に言った。
「ありがとう」
「それにしても、すごい選曲だったね。プログラムを見た時、外山も僕も驚いたよ」
ショウは晴れやかな表情で、いかにアキラの演奏が素晴らしかったかを力説する。
「でも、流石というかなんというか……あれは、アキラだからできる演奏だよね。技巧的な部分以外の魅力を存分に感じられて、かえって良かった」
アキラの喉はカラカラに乾いている。
「アキラのこだわりが感じられる選曲だったね」
「ボクのこだわり? どんな?」
アキラは一縷の望みにかけて、その問いを発した。しかしショウの答えはあまりに残酷だった。
「え? こだわりが無いとああいう選曲にならないんじゃない? どういう理由があって選曲したのか、僕が聞きたいくらいだよ。まさか先生に勧められたわけじゃないよね?」
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