ぼくのたいせつなもの

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 ぼくはくま。  にんげんからはなぜか嫌われている。  ぼくをにんげんがみると、おどろいてにげてしまうんだ。  だけど。  だけど、ぼくはにんげんなんておそったりしないよ?  だって。  だって、ぼくはにんげんが大好きだから。  なぜ好きか?  なぜ好きなのかというと、ぼくがわなにかかったときに、助けてくれたから。  やさしく、けがをやさしくなおしてくれたんだ。  そのときに、女の子がおとしたペンダント。  ぼくは、それを返したくって、ずっと大事にしてるんだ。  それから、季節はながれたけど。  あの女の子、げんきかな?  ぼくは時々。人里におりるんだ。  あの女の子をさがしに。  でもね。  でもね、ぼくをみるとみんなにげだしてしまうんだ。  ぼくはくま。  にんげんにとっては、こわいそんざいなのかもしれない。  くまにとっても、にんげんはこわいそんざい。  くまだって、にんげんはこわい。  火のでるつつで、ぼくの仲間はころされたらしい。  でも、それも昔のこと。  ぼくの仲間たちはにんげんがいるところから、はなれてくらすようになったから。  だから。  だから、いまはにんげんとはけんかしてないよ?  でも、ぼくをみてにんげんはにげてしまう。  体が大きいから?  にんげんをおそったことがあるから?  でも、わからない。  それって、むかしのはなしだから。  ぼくが好きなのは、きれいな石をひろって、こものを作ること。  かわらでひろってきた石をツタでつないだり、みがいたりして、きれいにすると、気持ちがいいの。  だから、ぼくのすみかには、きれいな石でできた、アクセサリーやそうしょくひんであふれかえっている。  ……だれにあげるでもないけれど。  でも、いつかあの女の子にあげたい。  それがぼくのゆめなんだ。  そして。  ぼくのすみかのちかくに、女の人がきたんだ。  せのたかい、ととのった顔つきの女の人。  でも、なんだかなつかしいにおいがした。 「あの女の子?」  ぼくはそう思って、女の人に駆け寄ったの。 『キャー! 熊よ!』 「あ、にげないで! 待ってよ」  ぼくは女の人をおう。  脅かさないようにゆっくりと。  見失わないようにはやあしで。  そしたら、女の人は転んでしまった。 『た、食べないで!!』 「だいじょうぶだよ。おちついて」 『食べられる……お父さん、お母さん、サヨウナラ……』  女の人はとっても取り乱している。  そうだ。  女の子が落としたくペンダント。これ渡してみよう。  ぼくは、そっとペンダントを女の人に差し出してみた。 『食べな……え? このペンダント……』  女の人は、そのペンダントにしせんが釘差しになっていた。  やっぱり、あの女の子なのかな?  もし、そうではなければ、ぼくは殺されるかもしれない。  大好きなにんげんによって……。 『あのときの熊さんなの?』  ぼくにはにんげんのことばはわからない。  でも、この女の人は、だんだんと落ちついてくる。 『あぁ、そうなのね……ありがとう。大切にしててくれて』  女の人は、ことばをもらし、ぼくにだきついてきた。  わかってくれたんだろうか?  ぼくの目からなみだがこぼれる。 「きみはあのときの女の子なんだね? さがしていたよ」 『ありがとう。ありがとう……』  そして。  ぼくとその女の子は一緒に、ぼくのすみかにきた。 『きれいなお部屋ね。これ、みんなあなたが作ったの?』  きっと、このすみかをみて、おどろいているにちがいない。  きっと、きれいと言ってくれてるにちがいない。  ぼくはそっと頭をさげる。  そうすると、ぼくのあたまをやさしく、女の人はなでてくれた。 『優しい熊さんなのね。ううん。もしかすると私が助けたからなのかもね。また来てもいいかしら?』  そのひは、すぐにかえってしまったけれど、その女の人はぼくのすみかにまいにちおとずれるようになった。  ぼくのへやにちりばめられたきれいな、石たち。  がんばって磨いた、石たち。  手が大きすぎて、くろうしてツタをとおした、石たち。  みんな、みんな、ぼくの思い出の、石たち。  そして、だいじにしていた、女の人のむなもとで光る、石。  そんな石にかこまれて、ぼくは幸せだ。  きっと、女の人も幸せだ。  きっと、ぼくたちは幸せだ。  それから。  また季節は流れた。  女の人は、しわしわのおばあさんになり。  ぼく、はよぼよぼのとしよりになっていた。 「あなたは体が大きいのに、私よりも年寄りになってしまったのね」「ううん。にんげんのじゅみょうは長いから。しかたないよ』 「そう……かしら。私もそろそろ迎えが来そうよ?」 「あなたは、もっと生きてほしいな」 「……私を一人ぼっちにしないで」 「ううん。ぼくはもうこれでおわり。一人のこしてゴメンね……」 「いやよ! もっと……もっと!!」 「泣かないでよ。これはしぜんのせつりだから」 「うん……泣かないから。こんな時は笑顔がいいわよね?」 「ありがとう。じゃあ、ぼくは先にねむるから」 「私は後から行くからね。待ってて」 「あまり早くこないでね? それとお願いがあるの」 「うん、何でも言って?」 「ひざまくら。そして頭をなでて?」 「いいわよ。寝るまで……私の気が済むまで撫でてあげるから」 「ありがとう」 「ゆっくり休んでね」 「じゃあ、先に行くね」  そして、ぼくはおばあさんのひざまくらで、ゆっくり、ゆっくりと眠っていった。  眠るちょくぜん、あたたかい雨が降ってきた。   だいじょうぶ。  ぼくは、向こうで、ずっと見守っているから。  大好きな女の子。  大好きな女の人。  大好きなおばあさんへ。
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