影ぼうしふたつ

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私はその日、歌を忘れた。 優しい声だと褒めてくれた、 気持ちいい歌だと言ってくれた、 大切で大きな人を失ったから。 だって、私はいつだってその人のために歌っていたから。 私はあの日、感情をなくした。 いつも優しい声だった。 頭を撫でる大きな手が気持ちよかった。 大きな大切な人はもういない。 だけど、だから、私はもう何も感じないことにした。 でも、そんな自分を見せて生きるほど 私は素直でもないし、強くもなかった。 だから、あの日あの人を山盛りの花が覆い隠していたように 私も笑顔や共感やそんないろんなもので分厚く飾って 生きてきた。 不器用にブサイクに生きてきた。 * * * 
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