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彼岸花が咲き乱れ、冷たい風が吹く日。
寒風が彼岸花を揺する遊歩道。
私は一人、駅に向けて歩みを進める。
一歩ずつ。
一歩ずつと。
あの日、私は落とし物をしました。
貴方の中に。
貴方がいなくなった日に、私は貴方の中落とし物をしました。
どんな落とし物?
それは、貴方と過ごした私自身。
明るく、笑顔がきれいと言ってくれた、あの私。
優しく、素直と貴方が言ってくれた、あの私。
それは、貴方の中に置き忘れてしまいました。。
貴方は私に、変な言葉遣いだと、教えてくれました。
貴方は私に、フルコースのナイフとフォークの使い方を。教えてくれました。
貴方は私に、思いっきり遊ぶことを、教えてくれました。
貴方は私に、恋を、教えてくれました。
貴方は私に、本当の愛を、教えてくれました。
私は貴方を失ったときから、時が凍り付きました。
貴方の中に、落とし物をして、世界が凍てつきました。
落とし物を貴方から受け取れば、溶かす力があります。
だから。
今日、私は貴方に会いに行きます。
預かってくれていた、私の落とし物を取りに行きます。
列車に揺られて、貴方の元へ向かいます。
石の下にある、物言わぬ、貴方に会いに。
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