ママタレ

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ママタレ

「つづいては桜田恵美子の〇〇してもらいましょうのコーナーです! このコーナーはMCである桜田さんがゲストや専門家に何かをしてもらうというコーナーです。今回は催眠術。それでは催眠術師の方に登場してもらいましょう。どうぞ‼︎」 「お疲れ様でーす。」 ガヤガヤとした空気の中で一目散に帰っていくお大御所や、ディレクターに愛想を振る舞うグラビア女優、アイドルを口説く芸人など収録後のスタジオは各々が好きなことをしている。ここテレビの世界で生きるのはちょうど良さ。すぐ帰る大御所とずっとスタジオに滞在するグラビア女優を足して割ったくらいの時間で私はディレクター達に挨拶をして楽屋に帰る。 少しの間ゆっくりしていると、楽屋のドアをノックする音が聞こえた。入っていいと言うとマネージャーの山田がはいってきた。 「桜田さん。なんか今日催眠術かけてくれたSさんっているじゃないですか。あの人もう一個催眠術があるみたいで」 「うん。で、なに?」 「はい。えっと、すいませんだから、そのもう一つの催眠術やってみませんか」 「いや無理無理。だってあれテレビの台本どうりやっただけじゃん。インチキ催眠術師の催眠術受けるだけ時間の無駄でしょ」 そこを何とかお願いしますよ、と山田はごねる。  今回の企画は、催眠術をかけられるというものだった。テレビ側は若手の実力派を持ってくる予定だったそうだが、今回来た大御所催眠術師Sの圧力に負け、後者を採用してしまったらしい。私はいわゆるヤラセというのをしてその場を凌ぐ事となった。腹を割って話すとテレビ業界にはヤラセが多数存在する。特に催眠術は8割型そうだ。もし一日暇であればテレビをずっと見て欲しい。その中の3本か4本はきっとヤラセで出来た番組だろう。  そのため、ヤラセをすることに嫌悪感はなかった。問題なのはSが自分の実力を把握しておらず、本当に自分には催眠の力があると思っていることだった。機嫌を損ねることは今後、私のママタレントとしての活躍にも影響するとの脅し文句で私は渋々承諾した。  今日は小学二年のタカシがバイオリンをし、塾に行って帰ってくる。夜遅く帰ってくるタカシのために先に家についてご飯を作っておきたかった。タカシはお菓子が大好きだ。私がいないと勝手に食べるに違いない。しかし今後私のママタレントととしての活躍においてタカシは必ずテレビに出ることになるだろう。そんな時太った子供が出てこれば私は世間からどう見られるかわからない。もう6時だ。やはり今日は早めに帰らなければいけない。  早く帰るぞと思い山田に対して強く出ていたのにもかかわらず、いざSが自分から催眠術の誘いに来ると私は簡単に折れてしまった。情けないがこれもママタレントとして芸能界で生きる道なのだ。このところネットの評判も上がりうまくいっている。Sなんかのせいで私の生活を崩したくない。 「はい。これで完璧。きっとこれから1時間半の間世界が変わるよ」 「世界が変わるってどういう意味ですか?」 「うん。日常であるものを別に捉えていることあるだろ?そうだな…例えば自分の家のことを豪華な城だと思っていると家に帰った時自宅が白のように見えるんだよ」 「えー凄い‼︎」 インチキとわかっているマジックにオーバーなリアクションをとることには自分のプライドが痛んだが仕方ない。 「凄いでしょ。他にも恵美子ちゃんが僕のことをかっこいいと思っていたら街行くイケメンたちが僕の課をに見えるなんてこともあるよ」 「あはは……」 恵美子ちゃんと呼ぶ気持ち悪さと例えのセンスのなさに私は乾いた笑いしか出せんかった。 家に帰ると7時だった。タカシが帰ってくるのも7時くらいだ。ドアを開けるとタカシがソファーに座っていた。 「もう帰ってたの?」 「うん」 「あ、帰って気づいたんだけどゆうたくんなくしちゃったみたい」 泣きそうな声でいった。ゆうたくんというのはタカシお気に入りの人間の人形だ。いつもソファーに座らせているが確かに今日は無い。 「また探せば出てくるでしょ」 「うん。そうだね」  タカシをなだめ終えると今晩の料理を作ることにした。その時玄関のドアがガチャリと開いた。 え? 誰? レタスをみじん切りにする際使っていたナイフを持ちゆっくりと玄関に向かう。心臓が漠々と脈を打つのが聞こえる。ナイフを持った手が震えた。しビングのドアを開ければ玄関が見える。ゆっくりと震えながらドアを引いた。 そこにいたのはゆうたくんだった。どういうこと?一体何が起きているのだろう。状況の整理がつかずこの家で何が起きているのか、考えていると持っているスマホのアラームが鳴った。8時を告げるアラームだ。これはSが今から2時間後マジックの効果が切れるよと嬉しそうに仕掛けたものだ。切るのを忘れていた。アラームを止め急いでゆうたくんに視線を戻す。タカシがいた。怯えた目で私を見ている。震えた声で言った。 「お母さんなんで包丁持ってるの?」 なぜここにタカシがいるんだろう。はっ、と思いリビングに向かう。ソファーを見るとタカシくんが座っていた。
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