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それ以上に、恐ろしいのは周囲が世闇のように暗くなっていることだ。田舎町に住んでいるとはいえ、夕暮れ時でも舗装された道なら周囲を見渡せるし、等間隔で街灯もある。そんな環境に慣れた当時の私にとっては、このトンネルの中は別世界だった。
いや、かえって暗すぎるからこそ、恐怖心が薄らいだのかもしれない。内心ではびくびくしながらも、体は果敢にトンネルの中を歩き続け、ついに出口へと到達した。
その見慣れた自分の団地を目にした私は、おそらく笑っていただろう。これでもう怖い思いはしなくて済む。夕方にタイムトンネルを抜けたという武勇伝を得た私は、してやったりという気分で、ポケットに手を入れた。噛んでいたガムの包み紙でも取ろう、と。
すると、あれ…と声を上げていた。
私の宝物である、昭和64年の500円玉がなくなっている。友人宅を出る前まで、いやタイムトンネルに入る直前までは、確かにポケットの中にあったはずだ。
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