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だとすると…私は恐る恐る振り返った。
その真っ暗なトンネルは、まるでおかえりなさいませと言わんばかりに口を開いている。よく見ると木々の間に空いた、わずかな隙間が目に見え、まるで私を見下ろしているかのようだった。それも嗤いながら…
私は身震いした。すでに日は大きく傾いている。500円玉のことなんて忘れて、家に戻ったほうがいい。そう思いながら歩みを進めようとした。
すると、その直後に風が吹いた。ざわざわと雑木林の草木が擦れ合い、まるで生き物のように私に言葉を投げかけてくる。
――本当にいいのかい? 諦めたら、二度とレアコインが手に入らないかもしれないよ
私は再び立ち止まった。あの500円玉のことを思い出してしまう。子供の、小学校3年生にとっての500円玉は、なかなかに高価なものだ。それも昭和64年。わずか1週間しかなく、すぐに平成元年に代わってしまった昭和64年…
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