短編

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 ほどなくして、僕の前にコーヒーが提供された。注がれたコーヒーは、藍色のカップに良く合っていると思う。 「いただきます」 「これも食べてみて」  言いながら、蒸しパンやらチョコレートやらも、いつものように。 「いつもこんなに。すいません」 「孫みたいなものだからねぇ、色々出したくなるのさ」  そして僕がコーヒーを飲み終わるタイミングで、緑茶か紅茶も出てくるのだろう。  店内は聴いたこともない女性歌手の歌謡曲が流れている。いつも同じアルバムを掛けており、大体これが一周するのを頃合いに僕は帰り支度を始める。  感謝されたいからとか、お婆ちゃんの言っていたように孫の代わりになれればとか、そんなことを考えたことはない。ただ、この絶対に混むことが無い喫茶店の空気が、堪らなく居心地が良いのだ。  ――そしてまた思い出す。こんなことを文字に起こしてどうしたいのかと。わからない。わからないけれど、起こしてみたくなったのだ。それ以上でもそれ以下でもない。  僕はカップを手に取る。かちゃり、と陶器の音が静かに響いた。そして一口、コーヒーを飲んだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加