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バブル時代に
待つのは嫌いじゃない。
どんな顔をして帰ってくるのか。
待ち合わせ場所で待つのも相手の表情を想像してわくわくする。
今のようにスマホもなく、メールさえなかったあの頃。今よりもずっと待つことが多かった。
今の若者にはわかるまい。
約束して、待ち合わせをして、待ち合わせ場所を勘違いしたままお互いにその場所で30分以上来るはずのない相手を待ち続けて、結局会えずじまいで終わってしまうことなど。
仕事終わりの薄い夕焼けが夜の闇へと変わっていく時間。
待ち合わせといえばその時間帯だ。
私は若く生きることを楽しんでいた。楽しむために働き、浪費を浪費とも思わなかった。
あの時代は若い人たちですらお金は使うためにあった。
恋愛も自由を謳歌した。
若い女性には楽しいお誘いがいっぱいあり、より取り見取りとさえ思えた。
お金持ちの中年男性は何の迷いもなくお金を出してくれた。
幾つもある出会いのうちあの人を選んだのは運命だったのか。
待つことを苦にしない私の性分が、その関係をスムーズに始めさせ、進展させ、継続させた。
そして、その倫理に外れた恋愛関係は互いを苦しめ、人生を狂わせた。
他人は私たちの関係を汚いもののように罵ったが、私には愛されている自信があったので動じることはなかった。
夕暮れの町で待ち合わせ、夜になっていく街を二人で歩いた。
彼の愛を私は全身で受け止めた。
たとえ人がそれを淫らな、肉欲に満ちた、身体だけの関係だと蔑んでも、そこに二人の愛情があったことを私は信じて疑わなかった。
互いの肌を合わせ、ぬくもりを分かち合い、汗と体温を感じあう幸福に包まれながら過ごす時間。
私たちはもう離れることなどできなかった。
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