空っぽ

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「水樹さん……」 ゆらり、と彼の体がこちらを向く。気まずさを感じるものの、私は開き直りつつあった。見られてしまったのだから、もうどうしようもない。 「今の男、なに?」 詰め寄られて顔を背けると、彼の拳が、私の頭上の壁をドンと叩いた。 「……不倫相手です」 もう、なにもかもどうでもいい。 「アァ? あいつとヤッてたわけ?」 「ええ。もっと言えば、あの人だけじゃないですよ。就職してからずっと。社内の上司とか、マッチングアプリとか使って、いろんな人と寝てました」 挑発的な態度で説明すると、予想通り水樹さんの顔はみるみるうちに怒りが増していった。突き放してほしい。私は汚いでしょう。もう水樹さんが綺麗だと言ってくれたころの私ではないのだ。 「水樹さんともできますよ。この間、シたいって言ってたでしょ。どうします? シますか? 私こんなですけど」 同じラブホテルを指で示し、フフフと息が詰まりそうに笑った。彼はうなずきはしなかったが、折れそうなくらい強い力で私の手をとると、ホテルへ向かって歩きだす。枯れ果てた心でも、ホテルに近づくと切なさが込み上げてきた。着信拒否であやふやにしたのに。もうすぐ、私たちの関係は本当の終わりを告げるのだ。
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