空っぽ

13/20
436人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
水樹さんに囲われながら私がうつむいていると、腰を打って虫けらのように膝をついていた郷田さんが「う……」とうめき声を上げて起き上がった。彼は水樹さんを睨み、指をさして後退りをする。 「な、なんだお前は! 暴行罪だぞ! こんなことしてタダで済むと思ってるのか!」 水樹さんは聞いたことのないほど凄みのある声で「アァ……?」と唸り、郷田さんの胸ぐらを掴み上げた。私は止める気にならず、黙って見ている。 「ブッ殺してやろうか?」 水樹さん、本気だ。 郷田さんは足をカクカクさせて「な、な、な」と続きの言葉を探していたが、ここで勝手に裁判を始める以上に、今は身の危険を感じたらしい。とはいえ、水樹さんが暴行罪、脅迫罪、そして殺人罪にまで問われては、私が困る。 「……郷田さん。全部なかったことにしてどっか行ってもらえますか。そしたら私も、奥さんになにも言いませんから」 今までしたことのなかった脅しを使い彼を追い詰めると、私がいなければ生きていけないと喚いていたはずの郷田さんは「ヒイッ」と四つん這いで逃げていった。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!