片道切符

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天気のニュースは終わり、ワイドショーに切り替わったところでテレビを消した。 いいや、絶対に見間違い、だよね。あれでは五年前の水樹さんがタイムスリップしてきたようなものだもの。ゆらりゆらりと、まるで騒がしい東京を観光しているような歩き方だった。微かな笑顔を浮かべていた。 私は荷物をまとめた。絶対に見間違いだ、そう思うのに、絶対にそうではない気がしている。ザワザワとした胸騒ぎが止まらなくなり、このホテルをチェックアウトし、駅へ走った。 水樹さんから借りたような黒くて大きいパーカーに、黒いタイツ、スニーカー。小雨で濡れて、冷たく、微かに重くなる。ハンドバッグは肩から斜めにさげて、ボストンバッグは手に持って走った。電車を降りてまた走り出したとき、ボストンバッグの方がなくなっていることに気づいたが、べつにどうでもよかった。
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