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エレベーターが上へと動き出したのをランプで確認した水樹さんは、くるりと踵を返し、エントランスへと戻ってくる。
彼はオフィスを数歩出て、私に気づいた。
「光莉?」
「……水樹さん」
両手をポケットに入れて、彼は私の前へスタスタと歩いてくる。少し濡れているが、茶髪はふわふわと揺れていた。
近づいてみて初めて気づいたが、彼のスーツは喪服だった。あの日と同じで、とても素敵だ。
すぐに「なにをしていたんですか」と聞くつもりだったが、彼が喪服だとわかるとなぜか聞けなくなる。胸騒ぎも大きくなるのに、一方でどこか安心もしていた。彼はなにかから、解き放たれたようなすっきりとした表情なのだ。
「行こう、光莉」
手を繋がれた。私も握り返した。行こう。遠くへ。
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