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なにも聞かず、なにも言わないまま、彼は駅でふたりぶんの切符を買ってきた。ICカードは持っているのに、わざわざ切符を。でもそれが、私たちの新たな旅立ちの片道切符のようでうれしかった。
切符を受けとると、忘れかけていた涙がじわりと出てくる。行き先は、私が母と暮らした故郷だった。
* * *
二時間電車に揺られ、手を繋いだまま、目的地で降りた。今さら来たところで、実家のアパートは、もう別の住人がいるだろう。そう考えていたが、水樹さんは母のお墓の場所を聞いてきた。
こちらは雨が降っておらず、かわりに照らしつけるような日が差している。車で行くような距離を、私たちは歩いた。母のお墓へ行くらしい。だから喪服だったの?と、ふと思ったが、違う気がする。
途中、お花屋さんで、花を買った。それを持ってさらに歩きながら、やっと尋ねる。
「……水樹さん。さっきの車椅子の女性は、お母さんですよね?」
水樹さんを長いこと苦しめていたお母さん。車椅子の彼女は弱々しかった。彼からはお母さんの悪口しか聞いたことはないけれど、それだけではない気がする。お母さんを置き去りにして、どうしてここへ来たんだろう。
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