片道切符

9/9
前へ
/161ページ
次へ
水樹さんは墓石から離れ、こちらへ吸い寄せられるように私を抱きしめた。あたたかい。泣いている。私もうれしくて同じ涙が出た。 「使いきれないほどの金がある。全部ふたりで使おう。なにも残らないように。今までできなかったことをやり尽くして。セックスも、したくなったら、しよう。もうしない理由はとくにないから」 「水樹さん……」 ギュッと体を抱きしめて、涙で濡れた彼と額をくっつける。 「全部終わったら、最後はふたりで手を繋いで、光莉の母ちゃんのところへ行く。俺も一緒に連れて行ってくれ。ひとりにしないで。もうひとりは嫌なんだ。光莉と一緒にいないと、俺はどこへも行けない」 私もだ。水樹さんと一緒にいないと、もう生きることも死ぬことも、できそうにない。やっと彼と同じ未来を見ている気がする。 目を閉じて、いつまでも終わりのこないキスをする。 もう二度と彼を離さないように。 END
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加