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冷たい刃物
朝、帰ったら話があると兄から言われた。兄に恋人がいることは二年前くらいから勘づいていたけど、ついにそのときが来たのだろう。むしろよく今まで妹とふたりで2LDKに住んでくれていたものだ。
しっかり者で心配性の兄は、これまで私を追い出せなかったのだ。もちろん私も無理やり転がり込んできたわけではなく、なんなら一応断ったりもした。しかし当時は、経済的にも精神的にも、兄の力を借りなければどうにもならなかった。
雪永光莉、二十五歳。生命保険会社の事務センターで契約社員として働いている。肩までの黒髪、眉とリップだけの薄いメイク。昔から地味な外見は変わらない。
三歳年上の兄、冬道はシステムエンジニア。百八十五センチでそこそこイケメンだからおそらくモテるだろう。たぶん恋人も、同じ職場の人だと思う。
兄は、私が持っていないものを三つ持っている。ひとつ目は、正社員という地位。ふたつ目は、恋人。三つ目は、大卒という肩書き。
あの日、多くを失った私に同情しているのか、兄はまるで呪いのように私を見捨てることができずにいる。
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