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南エリアを脱出後、ボロボロになった体を引きずり、何とか西エリアのスラム街入り口まで辿り着いたところでリオン達は崩れ落ちた。
死体のように倒れて動かない子供達の存在に気付いた住人達がすぐさま駆け付け、リオン達全員を横にさせられる安全な場所に担ぎ込んで手当てをしてくれた。
とは言っても回復魔法を使った治療ではなく、旧時代の簡易的な医療道具を使った応急処置に過ぎない。
パックリと開いてしまった傷口を消毒液で洗い、絆創膏を貼る。
骨が折れている為に体を固定する添え木を必要とする者も居た。
魔法技術によって成り立っている現在の最新技術があればいちいちこんな面倒な事をしなくても傷などすぐに完治出来るのだが、スラム街に医者は居ない。
当然、回復魔法のような高度な魔法を扱える魔法使いも居ない。
魔法と違い、旧時代の医療道具は数に限りがある。
その為、それらを重傷者に優先的に使用し、比較的軽傷の者は簡易的な処置で済まさざるを得なかった。
狭い世界で生きる者達のこれが限界なのだ。
手当てを終え、傷だらけのリオン達が目を覚ました事に気が付いた大人達は険しい表情をしていた。
勝手にエリア外に出た挙句、こんなボロボロの状態にされて戻って来たのだから当然だ。
厳しい目で睨む一人の男がリオンの顔を覗き込む。
「リオン。お前、また外に出たのか?」
「いけないのかよ?」
リオンの反抗的な態度に対し、男は目の前の机をバシンと強く叩いた。
「今のお前の、お前達の姿を良く見てみろ。それでもまだ同じ事が言えるか?」
体中を走り抜ける傷の痛みが自分達の置かれた現実というものを強く物語っている。
それが分かっているからこそリオンやシエルを含む他の者達も言葉を失ってしまっていた。
「いい加減現実ってものを理解しろ。あいつらはな、俺達を魔物やレッドアイみたいなバケモノを見るような目で見るんだ。一度根付いた差別の認識ってやつはそんな簡単に取り払えるものじゃないんだよ。俺達の居場所は一生ここと決まってるんだ」
「今回は助けたが、また無謀な事をしてここの限られた資源を無駄に浪費するようなら次は見捨てる。いいな?」
リオン達の言葉を待つ事も無く、大人達はそう言い残して去って行った。
真実など把握していなくとも、その言葉は正確に的を射ていた。
本部がこの問題を黙認し、意図的に推奨している以上、彼等の言う通り解決の見込みは無いと考えるべきだ。
このアルカディアの秩序と平和維持の為、自分達は意図的に差別されている。
例え真実であったとしてもそんな話は知りたくもない筈だ。
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