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大人達が出て行き、静かになった筈のその場で誰かの視線を感じた。
見てみると、背の高い銀髪の少年が腕組みをしながら立っており、それを見たリオンが不機嫌そうな顔で舌打ちをする。
大人達に交じってリオン達の手当てを手伝ってくれていたこの少年の名は「ジーク」。
リオンやシエル達と共にこのスラム街に住む少年だ。
不機嫌そうな顔をするリオンの元にゆっくりと歩み寄り、ジークは告げた。
「こんな事続けてたらいつかホントに死ぬぞ。リオン。周囲の認識なんかに興味は無いが、自分達が生き残る為に何がベストなのかを良く考えるべきじゃないのか?そういった意味では今回のお前の行動は軽率と言わざるを得ない」
少々強めな物言いだった。
というのもリオンと同様、ジークもまた彼の事を良く思っていない。
外の世界に理想を抱き、夢追い人のような事を言うリオンとは対照的にジークは現実主義者。
その瞬間の現状を受け入れ、生き残る為には何が必要かを考えるタイプである為、理想ばかりを振りかざし、後先考えないで行動するリオンとの対立が絶えないのだ。
「じゃあ、お前はこのままで良いのかよ?このまま一生惨めな生活をして過ごす事に満足なのかよ!?」
「お前が生きたいと願う人生とお前が実際に生きられる人生は全くの別物だ」
感情的になるリオンとはやはり対照的でジークは声のトーンも表情も冷静そのものといった感じだった。
「人間分不相応な事はするべきじゃない。理想と現実は違うんだ。いいか?もう一度言ってやる。生き残る為に何が最良なのかを良く考えろ。じゃないと死ぬぞ」
そう言ってジークは寄り掛かっていた壁から離れ、部屋の出口に向かって歩き出した。
そして部屋を出る直前、もう一度こちらを振り返って言った。
「まぁ、死にたいなら別だがな」
ジークもまた部屋を出て行き、シエル達だけが残されたその場にはしばし無音の空気が流れていたが、やがてリオンが静かに口を開いた。
「本当は俺だって分かってる。大人達やジークの言ってる事が正しいなんて事は今更説教されなくたって分かってるんだ」
「リオン・・・」
「でもおかしいだろ。人類は今、魔物や魔素のせいでこの狭い壁の中の世界で自由を奪われて生きる事を強いられている。でも俺達はこの壁の中の世界でさえ自由が無い。外の世界どころかこの壁の中の事さえ俺達は良く知らないんだ」
そう語るリオンの目には悔し涙が浮かんでいた。
「何が理想郷。何がアルカディアだ。ふざけんな。こんな窮屈に生きていく人生なんて、俺はごめんだ」
彼のその言葉と表情を前にシエル達はただ沈黙するしかなかった。
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