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アカリと共に公園内のブランコに座り、体を揺らしながらシエルは今日の出来事について彼女に話した。
自分達の受けた仕打ちに対してアカリは多少同情してくれるものと期待していたが、シエルの話を聞いた彼女は笑っていた。
「ねぇ、そこ笑うとこ?こんなになるまで痛い目に遭わされたっていうのに」
自分の体中に出来た痣を見ながらシエルがつまらなそうに呟く。
「ごめんごめん。でもそれはあまりにも無謀ってもんだよ。他のエリアの連中があたし達をどう見てるかくらい知ってるでしょ?他のエリアに正面から堂々と入って行くのならせめて身だしなみくらいはしっかりしていかないと。外に出た時、他の人達に溶け込めるくらいには自然な恰好してないとさ」
「う~ん・・・」
シエルは自分が着ているボロボロのTシャツを見て複雑そうな顔をする。
「アカリの言ってる事は勿論分かるけどさ、あたし新しい服買えるようなお金なんて無いもん。その日食べるものを何とかするのだけで精一杯なのに、身だしなみを整えろって言われても・・・」
スラム街には公衆の水浴び所があるが、そこが稼働するのは週に二回だけだ。
服だけでなく、体を清潔に保つ衛生面でもここは厳しい環境だ。
「だからさ、前に教えたじゃん。そういう時はオッサンにちょっと体触らせるくらいの事すればすぐにお金が手に入るんだって。シエルは顔可愛いんだからさ、絶対食いつく人居ると思うんだよね」
「そ、そうかな~・・・?」
「この世界は弱肉強食。どんな手を使っても現状を打破しようとしない限り未来は掴めない。やるか、やらないかだよ」
この時のアカリの表情は印象的だった。
シエルが顔を赤くしているのを見て楽しそうに笑うアカリはいつも通りだったが、その後弱肉強食について語る時の彼女の目はそれまでに見た事も無いとても鋭いものになっていたからだ。
アカリはシエルより少しだけ年上の友人だ。
と言っても物心付いた時から捨て子だった者は自分の生まれた日など分からない為、正確な年齢を把握している者はほとんど居ない。
シエルもアカリと自分が本当はいくつ違いなのかを分かっていなかったが、シエルにとってアカリは頼れる友人であり、良き相談相手であり、お姉さん的な存在でもあった。
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