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彼女はこのスラム街に住むシエル達と同じ孤児だが、いつも小綺麗な恰好をしている。
ある程度の年齢になればそれなりの労働力が期待出来る為、働き口が見つかる事もあるだろうが、ただでさえ西エリアの者達は周囲から差別的な目で見られているのだ。
大人でさえ仕事を探すのは簡単な事ではないし、大した体力も無ければ社会的経験にも乏しいシエル達のような子供が自力で収入を得る手段は限られている。
例え収入を得られたとしても金額は微々たるものだ。
服を買うどころかその日食べるものにも苦労する者がほとんどだというのにアカリは身なりがきちんとしているだけでなく、お腹が空いたという言葉を口にした事さえ無い。
シエルを含む他の子供達と比較してみても彼女だけが一段階上の生活レベルに居る事は明らかであった。
安定した収入源を持つ保護者と共に生活しているならまだしも、己の身一つで生活する子供がどうやって今の生活を成り立たせているのか?
初めて知り合った時からシエルはそれが不思議でならなかったが、その事についてアカリに尋ねると彼女はこんな答え方をした。
「ねぇ、アカリ。どうやったらアカリみたいになれるの?」
「ひ・み・つ♡」
「え?」
「シエルにもあたしの全ては教えられない。女はね、秘密を着飾って綺麗になるものなの」
人差し指を立てながらウィンクをするアカリだったが、黙ったままでいるシエルを前に笑いながら続きを口にする。
「なぁ~んてね。さっきも言ったように適当にお金を持ってそうな男を捕まえて自分を売る。そしてそのお小遣いで身なりを整えて更に上の相手を狙う。そんな事をただ繰り返してきただけだよ」
男を相手に稼いできただけだとアカリは語ったが、シエルにはそれだけが彼女の全てではないように思えた。
西エリアのような過疎地と違い、人の多い他のエリアには本部や警備隊、一般人の目が行き届いている。
成人ならともかく、アカリのような子供が売春を行う為の場所は限られてくる。
西エリア内部であればそういった問題も気にしなくて良いのかもしれないが、そもそも治安の悪いこの場所に他のエリアの一般人がやって来る事はほとんど無い為、集客そのものが見込めない。
仮に売春が成立したとしても一度に得られる金額はせいぜい一、二万円程度。
食費や衣類、その他諸々の生活費を考えれば安定性の無い数万円程度の収入のみで遣り繰りをしていく事は現実的に不可能だ。
そして何よりシエルが引っ掛かったのは、先程弱肉強食について語っていた時にアカリが一瞬だけ見せたあの鋭い目。
あれはまるで獲物を狙う時の野獣のような目だった。
自分達と同じ子供でありながらあんな目をする者はこれまで見た事が無かった為、シエルには特にそれが印象強かった。
逆に言えば、あんな目を出来るようになってしまう程の何かが今のアカリの周囲にはあるという事なのではないだろうか?
アカリは冗談だと言っていたが、やはり彼女には何か他に秘密がある。
そんな気がしてならなかった。
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