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「さてと・・・」
そう言ってその場を去ろうとする男をシエルが呼び止める。
「ちょ、あなた何処行くつもりなの?」
「何処って、隠れるに決まってんだろ」
「隠れる!?今回のあたし達の任務を放棄するつもり?そんな事したらインスペクターの連中に殺されるんじゃ・・・」
彼の言葉を聞いたシエルは慌てた様子でそれを止めようとするが、当の本人はと言うとケロッとした顔をしながらこう続けた。
「今回の俺達への任務内容は、レッドアイと魔物の一団を全滅させる事。これだけだ。時間制限があるわけでもなければ、一人一体は敵を倒せという具体的な指示があったわけでもない。つまりいつ何処で誰が何をしてようが、結果さえ出ていればインスペクターの連中に文句を言われる筋合いは無いって事だ」
「そ、それは・・・」
「お前の言う通り、このまま行けば俺達が何もしなくてもレインの奴が勝手に敵を全滅させるだろう。だが、今の奴の前に身を晒しているのは俺達にとっても危険だ。だったらレッドアイ達はレインの奴に任せて俺達は安全な場所に身を隠すべきだ」
確かに彼の言っている事にも一理ある。
だが、そんな屁理屈で押し通すような振る舞い方をしていて本当に大丈夫なのだろうかという気分にもさせられる。
彼はそんなシエルの考えを見抜いていたらしく、彼女の目を見ながら言った。
「戦場で生き残るのは強者と臆病者だ。相手を力任せに叩き潰すだけが戦いじゃないんだよ。俺みたいな奴がここまで生き残って来れたのがその良い証拠さ。お前もその命、せいぜい無駄にしねぇこった」
そう言って男はその場を後にした。
しかしシエルは結局その場に残った。
男の後を追い、彼と共に身を隠すべきなのではないかという気持ちも確かにあったが、それ以上にシエルはレインの事が気になっていた。
今の彼の近くに居るのが危険な事は分かっている。
だがそれでも、あんな姿になってまでたった一人でレッドアイ達と戦うレインの事が何故か気になって仕方が無かったのだ。
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