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「グオアアアァァァ!!」
天を裂くような叫び声と共にレインは再びその巨大な腕を振り上げ、目の前の魔法使いの男に襲い掛かる。
「マズイ!逃げろ!!」
「くッ・・・!!」
男は素早く横に飛び、攻撃を回避。
勢い良く振り下ろされたレインの巨大な腕に体を叩き潰されるのは免れたが、その瞬間に真横から別の攻撃が飛んで来た。
「ぐあッ・・・!!」
唐突な衝撃と共に体をぶっ飛ばされた当の本人は何が起きたのかを理解する暇も無かったようだが、彼はレインの尻尾による攻撃を受けたのだ。
最初の一撃を避けたその瞬間、鞭のようにしならせた尻尾を振り回し、男を真横から攻撃したというわけだ。
この時、目にも留まらない程の速さで放たれた尻尾の一撃を彼は首に受けていた。
これにより首の骨を砕かれた男は吹き飛ばされ、壁に激突した後にその場で呆気無く絶命してしまった。
だがしかし、既に正気を失っているレインは止まらない。
次は先程の彼に警告の言葉を送っていたもう一人の男に視線を向ける。
「ひッ・・・!!」
その青く輝く鋭い瞳に睨まれた瞬間、男は背筋に冷たいものを感じ、そして逃げ出していた。
「う、うわあああぁぁぁ!!助けて!!助けて!!助けてぇぇ!!」
圧倒的強者によって自分の命を握られているという確かな感覚。
それを感じつつ、そしてそれを振り払おうとするかのように男は情け無い声を上げながら必死に逃げた。
だが、レインは相手を決して逃がさない。
ドスンドスンという大きな足音が地響きと共に背後から近付いて来る。
そして次の瞬間、先程と同様に凄まじい衝撃を受けた男の体は吹き飛ばされていた。
「うあッ・・・!!」
汚い地面に転がり、そこが真っ赤な血液で染め上げられたその時、彼はようやく自分が攻撃を受けたのだと理解する。
見てみると、右腕が丸ごと吹き飛ばされ、脇腹も半分程がえぐり取られて無くなっていた。
レインの鋭い爪によって攻撃された影響だろう。
「う、うぅ・・・」
自分の体がどうなっているのかを理解し、その上で何とか逃げようとする彼であったが、流石に傷が深く、血を流し過ぎていたようだ。
思うように体を動かす事が出来ず、仰向けに倒れたまま力尽きてしまう。
そこへ再びレインがその巨体でゆっくりと歩み寄って来る。
「や、やめてくれ。俺はまだ、まだ死にたくな・・・」
そしてその腕を振り上げ、彼の最期の言葉を聞く事も無く、その体を勢い良く踏み潰した。
ブジュッという嫌な音が周囲に響き渡る。
「グオアアアァァァ!!」
再び大きく咆哮を上げ、周囲に誰も居なくなった筈の場所で暴れ回るレインのその姿を少し離れた場所からシエルは見ていた。
確かに今の彼はレッドアイ以上に凶暴な存在だ。
誰もが恐れ、手が付けられない程の存在である事は間違い無い。
しかしシエルが今のレインから感じていたのは、それとは全く別のものであった。
なんて、なんて・・・。
彼はなんて悲しそうな目をしているんだ。
レインの鋭い瞳を見つめながら、シエルは自分の中でそんな事を呟いた。
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