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本人の口から結果を聞くまでも無かったが、やがてレイン達はレッドアイと魔物の大群を前に追い込まれていき、劣勢に立たされる事になる。
「ギリギリの所で何とか踏ん張っていたが、遂に俺達の部隊にも限界が訪れた。レッドアイによって放たれた魔法攻撃が急所を直撃し、俺の部下の一人が命を落とした。しかもそれは本人のミスではなく、奴が俺を敵の攻撃から庇ったせいだった」
言葉を区切り、レインは続ける。
「部隊が全体的に消耗している中、一人が欠け、陣形が崩れた後はあっという間だった。一人、また一人と部下は倒れていき、そしてレッドアイを倒す頃には俺の部隊の生き残りは自分一人だけになっていた」
当時の事を思い出しながらそう語るレインの表情はとても辛そうだった。
シエルはそんな彼の話に無言のまま耳を傾けていた。
「隊長の役割は任務を成功に導く事だ。だが同時に隊員達を預かる者として彼等の命を守る事もその役割には含まれている。任務は達成しましたが、隊は全滅しましたじゃ話にならない。あの時、俺はシエルが言うように部下達に撤退を命じるべきだったんだ。上に逆らって処分されようと、俺は部下達の命を最優先に考えるべきだったんだ」
かつての自分の行動を懺悔するかのように彼は言った。
「俺があいつらを殺したんだ」
恐らく、彼は真面目過ぎたのだ。
規律を重んじる組織への忠誠心。
そして戦場に立つ魔法使いとしての正義感と使命感。
それらがこうした結果を招いたのだ。
「レッドアイを打ち倒す事には成功したが、血を流し過ぎた俺にはもう周囲の魔物達を倒す力は残っていなかった」
ここで俺も死ぬ。
彼はそう覚悟したそうだ。
そしてそう覚悟したレインに応えるかのように彼の周りで倒れていた部下達の亡骸にも徐々に変化が起き始める。
死した魔法使い達の成れの果て。
魔物化だ。
魔物と化した部下達が目の前で立ち上がり、彼を取り囲むようにして見下ろしてきた。
あの時の彼等の自分を見る目、その表情は今でも色濃く記憶に残っているという。
頭では分かっていても命令を優先し、部下達を見殺しにした自分はただの人殺しだ。
そんな自分一人だけが生き残るなど、あってはならない事だと思えた。
どの道自分はもう助からない。
「ならばせめて最期はあいつらの手に掛かって死ぬべきだと思った」
そして彼等を受け入れたレインは魔物と化した部下達の手により、全身をめった刺しにされた。
肉を貫かれる音と共にレインは地面に崩れ落ち、血の海の中で意識を失った。
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