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「徐々に体の感覚が薄れていき、自分の意識が暗い闇の中に沈んでいく。俺は自らの死を覚悟した。だが、俺は生き残った」
彼が再び目を開くと、そこには同行していた治療士の面々が顔を覗かせていた。
生死の境を彷徨い、意識が朦朧としてはいたが、それを見た時に彼はようやく自分がまだ生きている事を実感したという。
聞くところによれば、レイン隊が全滅した直後、同じく任務に参加していた他の二部隊の生き残り達がその場に駆けつけ、彼を救い出してくれたようだ。
レインに重症を負わせた彼の部下達は既に魔物と化しており、もう元には戻れない。
当然、抹殺対象だ。
そんな彼等に手が下される瞬間を見なくて済んだという意味では、意識を失っていた事もレインにとっては好都合だったのかもしれない。
敵の猛攻により残った二部隊もかなりの人数を失ってしまったようだが、結果としてレイン達は任務をやり遂げ、生還する事が出来たのだ。
回復魔法による治療を受けたとはいえ、レッドアイとの戦闘による負傷に加え、全身を滅多刺しにされて尚助かったのはほぼ奇跡と言って良い。
自分を助け出してくれた仲間達に感謝の言葉を伝えこそしたが、内心では助かった事を素直に喜べずにいた。
部下達を見殺しにしておきながら、よりによって自分だけが生き残ってしまったのだから。
「あの時、あいつらの刃に身を委ねた俺は死んでいる筈だった。それなのに何故俺は助かったのか。その答えはすぐに分かった。本部の医療施設に運び込まれて検査を受けた時にな」
レインのその話を聞いた瞬間、先程のあの男と話していた内容がシエルの脳裏に蘇ってきた。
「まさか、魔物因子!?」
無言のままレインは頷く。
「そうだ。いつの間にか俺の体内に入り込んでいた魔物の因子は俺の体細胞と癒着し、独自の力を発揮するようになっていた。これにより、俺の体の耐久力は常人の数倍にまで跳ね上がっていた。元の体のままであればそのまま死んでいただろうが、この力に目覚めた事でどうにか俺は生き長らえたらしい」
「でもどうしてそんな力が急に?」
「治癒士や科学者達の間でも意見は別れていたようだが、考えられるとすれば魔物になったあいつらの攻撃を受けた時だろうな。体を貫かれた際に魔物の体を構成する魔素と俺の体細胞とが直接接触し、干渉し合った事で何らかの突然変異が起きたんだろう」
そしてその結果、それまでとは全く異なる力を持った個体となった。
まさにミュータントだ。
個人差はあるが、魔法使いの死後、早い者は僅か数分で肉体が変化し、魔物化する。
つまりそれだけ急激な速度で肉体を構成する細胞の情報が魔素によって書き換えられているという事だ。
魔物の因子を宿したレインの体が短時間で変化したとしても不思議は無い。
だが部下達の攻撃に身を委ね、その罪悪感から死さえ受け入れようとしていたというのに結果的にそれが原因となって自分だけが生き残ってしまったのだから皮肉な話だ。
そしてこの力に目覚めた事により、彼自身の運命もまた大きく変わっていく事になる。
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