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「半人半魔の存在にはなったが、それでも俺は生き残った。己の運命を喜ぶべきか。それとも悲しむべきか。そんな事を考える間も無く、この力に目を付けたアンダーアルカディアの連中が俺の前に現れた。そこから先の流れについてはシエルにも想像出来るだろう?」
弱々しい笑みを浮かべるレインを見てシエルは軽く頷いた。
自分も同じだったからこそ良く分かる。
彼等はその絶対的権力と暴力を振りかざしながら強引に迫って来る。
全ての事実は彼等にとって都合の良いように改竄され、歯向かう者が居れば容赦無く排除される。
誰も彼等に逆らう事など出来ないのだ。
この日、レインは記録上戦死したものとして処理され、アンダーアルカディアに身柄が送られる事となった。
「アンダーアルカディアに堕とされてからはありとあらゆる実験が行われた。いくつもの苦痛と恐怖が体に刻み込まれ、多くの者達が次々に死んでいく。だが、ここでも俺はしぶとく生き残った。肉体と精神が魔物に浸食され、一日を過ごす度に人間らしさが失われていく。それでも俺は死ぬ事が出来なかった」
そんな日々をレインはどんな思いで過ごしていたのだろうか。
彼はこう語った。
「俺は思った。これは俺自身への罰なんじゃないかってな」
「罰?」
「あぁ。アイツらを見殺しにし、その死を踏み台にして生き残ってしまった俺自身への罰だ。あの時、魔物になったアイツらが俺に向けた目。今ならばその意味が分かる気がする。救えた筈の命を救わず、ただ上の言いなりになって部下達を死なせた俺は人殺しだ。そんな奴には死ぬ権利すら無い。きっとアイツらも自分を死に追いやった俺を恨んでいるに違いない」
自分のような奴は簡単に死ぬ事など許されない。
これはその罰であり、呪いなのだ。
それが彼の解釈だった。
だがそんな彼に対し、シエルはこう返していた。
「いや、きっと皆はあなたを恨んでなんかいなかったと思うよ」
「え・・・?」
「あなたが本当に恨まれるような人物だったのなら、誰も付いて来なかった筈だよ。まして自分の命が掛かっているギリギリの状態での命令ならば尚更ね」
どんなに聞こえの良い言葉を口にしていても人は追い込まれれば本性を見せる。
薄っぺらい忠誠心などかなぐり捨てて自分の身を守る事だけを考え、全力で行動する。
それが本来取るべき、生物の防衛本能だからだ。
「けれどそんな状況の中でも皆がレインに最後まで付いて来たのは、あなたを信頼していたから。あなたになら全てを掛けられると思っていたからだとあたしは思う」
「シエル・・・」
「レインにしたってそうだよ。絶望的な状況の中、あなたは逃げもせず、自らが先頭に立って隊長として最後まで任務をやり遂げた。部下の人達の事は確かに残念だったと思うけど、今のアルカディアがあるのはレイン達が頑張ってくれたお陰だもの。あたしはレインも、一緒に戦ってくれた部下の人達も皆立派だったと思うよ」
シエルのその言葉を聞いたレインは静かに目を閉じながら言った。
「今でもあの日の事は夢に見るんだ。その度にアイツらを死なせてしまった事をずっと後悔してきた。でも、誰かがそう言ってくれるだけで随分と救われた気がする」
再び目を開き、目の前のシエルを見ながらレインは頭を下げた。
「ありがとう。シエル」
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