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周囲を見渡してみると、いつの間にかゼアルを含む数人のインスペクター達に囲まれていた。
我ながら迂闊だった。
レインとの会話に夢中になるあまり、彼等の接近に気付けなかったとは。
実験体の動きを封じる為のキャパシティダウンと拘束具を持って現れたところを見る限り、彼等はレッドアイ討伐という任務完了の確認と今回の生き残りを回収する為にこの場にやって来たようだ。
ここが外界のどの辺なのかが分からない以上、シエル達が無事にアルカディアに戻る為にはゼアル達の指示に従い、今は大人しくしているしかない。
だが、レインの事をあれだけ言われて黙っている事は出来なかった。
キャパシティダウンによる全身の痛みに耐えながらシエルは言葉を絞り出す。
「そ、そんな言い方しなくたって良いでしょ。レイン達は十分頑張って戦った。それを批難する権利はあんたには無い!!」
耳の穴に突っ込んだ小指をコリコリと動かしながらシエルの話を興味無さそうに聞いていたゼアルだが、やがて再び腹の立つ顔で言ってきた。
「頑張ってたらそれで良いなんていうのはな、おこちゃまの世界だけの話だ。実際の魔法使いの世界ってのはもっとシビアなもんだ。戦場に立つ魔法使いとして結果を出せたか、出せないかだ。コイツは隊長としての役割を果たせなかった役立たずだ」
「そ、それは本部が無茶な戦わせ方をしたからでしょ!!」
「同じ条件でも結果を出す奴とそうでない奴が居るのは何故だ?理由は簡単だ。それをこなせるだけの力がそいつにあるか、無いかというだけの話だ。コイツが隊長として、魔法使いとしてもっと強くて優秀だったのなら部下は死なずに済んだ事だろうよ」
地面に膝を突き、こちらを睨みながら見上げているシエルに対してゼアルは再び鼻で笑いながら告げた。
「もう一度言ってやる。弱ぇ奴が悪いのさ」
「くッ・・・」
シエルが言葉を詰まらせていると、ゼアルは彼女の元に更に近付いて来てこう続けた。
「つーかよ、テメェさっき俺の事呼び捨てにしてたな?俺を呼ぶ時はゼアル様だろうがよッ!!実験動物風情がぁッ!!」
その瞬間、ゼアルは膝を突いたまま動けないでいるシエルの頬に蹴りを叩き込んできた。
生身の無防備状態のシエルの頬に硬いブーツのつま先が突き刺さり、顔に襲い掛かる衝撃と共にその小さな体が吹き飛ばされ、汚い地面に転がる。
「がはッ・・・!!」
ゼアルの一撃によって口内がバックリと切れてしまい、口から真っ赤な鮮血を吐き出すシエル。
しかし彼女はそれでもゼアルの事を睨み続けていた。
「こ、こっちこそもう一回言ってやる。お前なんかに人の事を批難する資格は無い。レインに謝れ、ゼアルッ!!」
こんな奴の事など、死んでも様付けで呼んでやるものか。
シエルは心の底からこの男の事を軽蔑しているのだから。
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