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シエルのその言葉に舌打ちをするゼアル。
「いちいち癇に障るガキだ。どうやらここで死にてぇらしいな」
そう言ってゼアルがシエルの方に歩みを進めたその時だった。
「お、俺の為にすまない。シエル」
シエルと同様、絞り出すようにして声を発していたのはレインだった。
「あ・・・?」
突然のレインのその言葉にゼアルが足を止めて振り返るが、彼は気にせず話を進める。
「だが、良いんだ。全ては俺の不甲斐無さ故の事。ゼアルの言ってる事は正しい。アイツらを守れなかった俺が悪いんだ」
するとそれを聞いたゼアルはシエルをそのままにしてぐるりと方向転換し、レインの元へと戻って行く。
そして彼の体に突き刺さったままになっている剣を再び掴み、更に深く刺し込んだ所でそれをグリグリと動かしながら言った。
「ゼアル?ゼアル様だろ?テメェにも教育が必要か?半魔野郎」
剣が動かされる度に少しずつ傷口が広がっていき、血が更に溢れ出して来る。
その痛みに耐え、苦痛に表情を歪めながらレインは静かに頭を下げた。
「申し訳、ありませんでした。ゼアル様。どうかお許しを・・・」
先程のシエルとは打って変わり、素直に自分の言葉に従って頭を下げて来たレインのその姿にゼアルは気色の悪い笑みを見せた。
「どうやらお前はそこのクソガキと違い、あるべき上下関係をしっかりと弁えているようだな」
「勿論です。ゼアル様あっての我々ですので」
頭を下げるレインと相変わらずこちらを睨んでいるシエルとを交互に見比べながらゼアルは言った。
「フン、まぁ良いか。命拾いしたなクソガキ。おい、今回の生き残りを全員回収の上、拘束しろ。これよりアルカディアに帰還する」
「はっ!!」
レインの体に突き刺さっていた剣を乱暴に引き抜き、ゼアルが周囲のインスペクター達に指示を出しながら離れて行くのを見てシエルはようやく理解した。
たった今、自分はレインに救われたのだと。
あのままレインが何もしないで見ていた場合、シエルはゼアルによって惨たらしく殺されていた筈だ。
しかし彼はわざとゼアルを呼び捨てにする事でシエルに向いていた注意を自分に向けさせた。
自分の腹に穴を開け、傷口を広げてまでレインはシエルを庇ったのだ。
「レイン。あなた・・・」
「ゼアルの性格を考えれば、ちょっと挑発してやるだけですぐに乗って来るのは分かってた。計算通りだったな」
「そうじゃない。どうしてあたしを庇ったりしたの?そのせいであなたの体が・・・」
痛々しく広がった傷口とそこから流れ出る血を見ながらシエルが言うと彼はこう答えた。
「半人半魔の俺にとって、このくらいの傷どうって事は無い」
「だけど・・・」
「シエルは良い奴だから死なせたくなかったんだ」
「え・・・?」
「フフ、何てな。俺はただ、あの時みたいに自分の前で誰かが死ぬのを見たくなかっただけさ。シエルには俺の暴走を止めて貰った借りもあったからな」
レインは再び弱々しい笑みを見せる。
「ゼアルの言ってた事は正しい。全ては俺の力不足が招いた事だ。アイツらを守ろうとしてたつもりだったが、結局は上の意見に流されて死なせてしまった。俺はリーダーの器じゃなかった」
「レイン・・・」
「今更無駄な事だと分かってはいるが、それでも時々考えてしまうよ。もし俺を、俺達を導いてくれるようなリーダーが居たとしたら、もっと違う形になっていたんだろうかってな」
この時のレインの言葉は少々他力本願な言い方にも聞こえたが、恐らくこれは彼なりのSOSだ。
自分の力だけではどうする事も出来なかった。
だから自分を導いてくれるような、そんな存在が現れてくれる事を願わずにはいられない。
もしかすると彼も本心では救いを求めているのかもしれない。
その言葉を最後に二人はインスペクターの者達によって拘束された。
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