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シエルが連れて来られたのは、過去の実験の際にも使われた空間魔法を用いて様々なフィールドを作り出す事が出来る例の部屋だ。
アルカディアの訓練施設に導入されているトレーニングルームと同じシステムのものが採用されており、天候、地形、気温などあらゆる条件の組み合わせが可能な空間を自在に作り出す事が出来る。
始めてこの部屋に入れられた時もそうだったが、相変わらずここは物々しい空気に満ちている。
この場に居る全員がこれから殺し合いをさせられる者同士なのだから当然ではあるが。
最後に部屋の中に入って来たシエルに対して背を向けている者や仮面を付けている者などもおり、全員の顔を確認する事は出来ない状態だったが、ざっと見た感じ人数は彼女を含めて二十人程だろうか。
見るからに体格の優れている者や凶悪そうな武器を手にしている者達が並ぶ中、唯一シエルだけが小柄で落ち着いた印象の人物であった。
そしてこういった場面ではシエルのような明らかに大した事の無さそうな者から先に狙われる場合が多い。
真の強敵とやり合う際に余計な横槍を入れられないようにする為、それ程苦労無く倒せる相手ならば余力のあるうちにサクッと倒しておくのがセオリーだからだ。
シエルの事を見てニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている連中は皆、彼女を最初のターゲットにしようとしている者達なのだろう。
この感覚は初めてアンダーアルカディアに連れて来られた時に行われたあの選別試験のものと嫌になるくらいそっくりだった。
そしてそんな空気に呑まれ、自分が動けないでいたせいでリオンが目の前で死んだのだ。
「ッ!?」
唐突に脳裏に蘇ったその記憶を振り払うかのようにシエルは頭を激しく横に振った。
くそ、どうしてこのタイミングであの時の事を思い出すんだ。
今は目の前の事に集中しないといけないのに・・・。
そんなシエルの事をガラス窓の向こう側にある制御室から見ている者達が居た。
今回の実験の発案者であり、彼女の開発担当をしている研究チームのメンバー達だ。
「いよいよですね。主任」
「あぁ。これで奴の真価が分かる筈だ。俺達の期待に応えて貰いたいものだな」
そして遂にその時が訪れた。
白衣の男が制御室からアナウンスマイクに向かって言葉を発し、それが部屋の中に響いて来る。
「それではこれより今回の戦闘実験を開始する。ルールは至ってシンプル。君達にはこれから全員で殺し合いをして貰う。今この場に居る二十人が最後の一人になるまで行うデスマッチだ。自分から積極的に他の十九人を殺しに行くも良し。最初は隠れてやり過ごし、最後の二人になった所を狙って殺すも良し。いずれにしても最後まで生き残っていた者が勝ちであり、その時点で実験は終了となる」
こういった言われ方をするのにももう大分慣れてはきたが、相変わらず彼等は殺し合いをしろだのという物騒な事を簡単に言う。
彼等はシエル達実験体の命など何とも思っていない。
「それでは思う存分殺し合ってくれたまえ。諸君の健闘を祈る」
その言葉の直後、空間魔法が発動し、シエル達の立っている場所を中心に部屋の中が激しい光に包まれていった。
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